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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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巡り合う街の不確定未来 探偵奇談16

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こんな星の夜



ライブハウスを一歩出ると、汗ばんだ体に冷たい風が心地よい。部活後のさわやかさとは全く違う爽快感に、郁は大きく伸びをした。凍り付いた空には星が瞬いており、幸福な気持ちを増幅させる。

「汗だくだ~」
「あたしもです。コートいらないくらい!」

伊吹はすでに半袖になっている。余韻が胸をいっぱいに満たしていて、何とも言えない達成感と、現実に戻ってきたような寂しさ。家路に向かう観客たちは、どのひとも言葉少なだった。言葉に出来ない感情を噛みしめているかのように。

瑞も同じようだった。どこか魂の抜けた風な、ぼんやりとした横顔を郁は見つめる。並んで歩きながら、彼は何事かを思案し続けているようだった。先ほど、指先を触れ合わせたことが夢の様に遠い。あれは郁の錯覚だったのだろうかと感じるほどに、現実味のない空間での出来事だった。

「じゃー俺友だちと行くから。気を付けて帰れよ」

駅のそばで伊吹と別れる。郁はぺこりと頭を下げた。
二人きりになる。会話がなんとなく途切れてしまい、バス停に着いた。二人で並んでベンチに腰掛ける。星空が綺麗に見えた。オリオン座。赤い星、白い星。

(…何か言わないと)

沈黙が続いている。郁は話題を探す。白い息が夜に溶けていくのを眺めながら、落ち着かない気持ちが逸っていくのを感じる。

「前髪」
「はいっ」

沈黙していた瑞が突然声を発したので、郁は声が裏返ってしまった。

「なんで前髪切らないの?」

尋ねられ、思わず自分の前髪に触れる。夏から切っていない前髪は、もう目の下より長い。斜めに分けて耳にかけているので、もう鬱陶しくは感じない。

「えっと…これはね」

だって、これは須丸くんが切ってくれたから。そんなこと言えるわけもない。バス停の街灯が、チカと一度瞬いた。