小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ルナティック・ハイ

INDEX|16ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

影踏み07 影踏み


 呼ばれた2人の男は、その臭いを嗅いだ瞬間に吐き気を催し、その光景を目の当たりにした瞬間に、胃の内容物を全て吐き出した。
 肉を抉られ手足をもがれ、腸を引っ張り出された男たちの屍体が、山になって壁際に積まれていた。
「清掃員を呼ぶ暇がなくてね」
 と、物陰から現れた瑠流斗が言った。
 瑠流斗は事務所に置いてあったスーツに着替え、何事もなかったような顔つきだ。だが、すぐそこには屍体の山がある。
 呼ばれた2人の名前は、黒い瞳の白人男性サリヴァンと、松田という冴えない男だ。
 2人はすぐに地下室の前まで案内された。
「内側から鍵がかかっているらしいから、2人で協力して開けてくれないかい?」
 瑠流斗の要請にまず動いたのはサリヴァンだった。
 眼を細めて厚い扉をじっと睨む。
「船の舵のような物がここの真裏にある。だいたい距離は30センチ先だろう。それを回せば鍵は開きそうだ」
 流暢な日本語でサリヴァンは言った。そう、彼の能力は透視なのだ。
 そして、松田の能力は?
 頭を掻いてから松田は大きなあくびして、やる気のなさそうな感じで、軽く手に力をこめはじめた。
 松田の手が振るえ、すぐに一気に力が抜けた。
「重すぎて開かないなぁ」
 声までやる気がない。
 サリヴァンの平手が松田の頭を引っぱたいた。
「しっかりやれ!」
「うい、ちゃんとやりますよー」
 やっぱりやる気のない顔で松田は再び手に力を込めはじめた。
 扉の取っ手を握っていた瑠流斗の手が動いた。ゆっくりと扉が開く。
 松田は瑠流斗を見てニヤリとした。
「開けたぜ」
 この男の能力は念動力。手を使わずに物体を動かす能力者なのだ。
 瑠流斗は2人に顔を向けて言う。
「料金はあとで払うよ。今は早くこの場所を離れたほうがいい、また銃を持ったやつらが押し寄せてくるまえにね」
 その言葉にサリヴァンは背筋を凍らせた。駐車場の屍体が脳裏に過ぎってしまった。あんな殺戮が行なわれる現場に居合わせたくない。
「そうだな、私たちは先に帰らせてもらおう」
 サリヴァンと松田は瑠流斗を残して姿を消した。
 重く分厚い扉を開けて、瑠流斗は部屋の中に侵入した。
 すぐに扉を閉めると、辺りは一筋の光もない闇に包まれる。扉を開けっ放しにしないのは、雄蔵を逃がさないためだ。けれど、その代わりに瑠流斗はなにも見えなかった。
「ついに追い詰めたよ、影山雄蔵」
 闇の中を見ることはできる。だが、闇と同化している者は見えない。
 声は闇の中から返ってきた。
「まだ、追い詰められたわけではない。まだ私はこの闇に隠れている」
「そうだね」
「私を本当に殺せると思っているのか?」
「どうだろうね、やってみなくてはわからない」
 いつもの口調、いつもと同じ顔、いつもの瑠流斗だった。
 瑠流斗は一歩前へ踏み出した。敵の気配を探る。しかし、なにも感じられない。
「私の居場所がわからんのかね? わかったとしても私に攻撃を加えることは不可能だと思うがね」
「居場所が掴めないのは事実だね。声が反響しすぎて、声から場所を探ることができない」
「そうだろう、この部屋は特別製だからな」
 雄蔵がしゃべるたびに、部屋中から声が聞こえ、それは山彦のように反響する。
 瑠流斗がまた一歩足を動かした。
「貴方は父上よりも用心深い。影でありながらも、さらに存在を隠し続ける」
「そうだ私は生まれたときから影だ。表舞台には決して立つことができない」
「生まれたときから影か……それについてはまだ納得していない。たとえば、影がなければ本体は存在できると思うかい?」
「突然なにを言い出すんだ、質問の意図がわからんな」
「おそらく君自身も、源三郎氏も気付いていない事実」
 瑠流斗が口元を緩めた。
 影が震えた。
 刹那――影が狂気を放つ。
「ぐぎゃぁ!」
 闇の中に木霊する悲痛な叫び。
 また気配が消えた。
 そして、すぐに雄蔵の声が聴こえる。
「どうして、どうしてだ!」
「なんのことかな?」
 悪戯に瑠流斗は笑った。
「どうして私に攻撃を!」
「その問題に関しては、すでに解決済みだよ……はじめてボクが源三郎氏にあった時点で」
 瑠流斗は感覚を研ぎ覚ませた。
 殺気を放つ一瞬、相手の気配が伝わる。つまり、影である雄蔵の気配はゼロではないということになる。今も、微かな気配がどこにあるはずだ。
 音はない。空気の流れもない。声すらも聴こえなくなった。
 雄蔵はどこにいる?
 部屋に光が差し込んだ。扉が開こうとしている、逃げる気だ!
 少し開いた隙間から影が出て行った。すぐに部屋は闇に閉ざされ、瑠流斗は素早く扉を開けた。
 逃げ足は聴こえない。それでも瑠流斗は階段を駆け上がった。
 瑠流斗は見た。床に走っているシルエットが映っている。そのシルエットを瑠流斗は追った。
 雄蔵を追ってビルの外に出た。
 降り続く雨と、夜の闇が雄蔵を隠す。だが、幸いなことに辺りのビル明かりや、風俗店の明かりが世界を照らしていた。
 あそこまで追い詰めて、ここで逃がすわけにいかない。
 一瞬たりとも雄蔵から目を離さず、瑠流斗は影を追い続けた。
 雄蔵はビルとビルの間に逃げ込もうとしていた。
 瑠流斗のリボルバーが叫びをあげた――怨霊呪弾だ。
 呪弾が当たったかどうか、弾痕は壁を腐食させていた。
 瑠流斗は感じていた。
 怨霊の気配が少しずつ遠ざかっていく。それは呪弾から解き放たれた怨霊の気配だった。呪弾はたしかに雄蔵に当たっていたのだ。
 呪弾がマーキングの代わりになり、瑠流斗は怨霊の気配を追って走り出した。
 細いビルとビルの間を走り、大きな道路に出た。
 右手は駅に続き明かりが強い。怨霊の気配は左からだ。いや、左だと思った気配が、急に速度を上げて右に向かい、瑠流斗の眼の前を通り過ぎた。
 車だ、雄蔵は車に乗り込んだのだ。シルバーの乗用車に雄蔵は乗っている。
 運転手に気付かれることなく、雄蔵は後部座席に身を潜めていた。
 車を追いかけて瑠流斗は走るが、さすがに車に追いつくことはできない。
 瑠流斗の眼に対向車線に走ってくるオートバイが映った。
 瞬時に瑠流斗はオートバイの搭乗者にラリアット――相手の胸に自分の腕を打ち付けた。転倒したオートバイから男が投げ出せれ、瑠流斗は地面の上で痛がる男には眼もくれないで、オートバイを奪って追跡劇を開始した。
 アクセルを全快にして、雨の道路を駆け抜ける。
 逃げる気のない車はすぐに見えてきた。
 遠くに見える信号が赤に変わった。雄蔵を乗せたシルバーの車も止まる。これはチャンスだ。
 瑠流斗はすぐに追いついて、車に横付けした。
 しかし、潜んでいた雄蔵がその存在を明らかにして、運転手を脅したのだ。
「横にいるバイクから逃げろ。でないと、おまえを殺すぞ!」
 姿なき声に運転手は怯え、言われたとおりアクセルを踏んだ。
 シルバーの乗用車が車の列から抜け出し、信号を無視して雄蔵を乗せたまま逃げ出した。
 すぐに瑠流斗も信号を無視して、車の流れを縫いながら交差点を突破した。
 駅前に近づくにつれ交通量も増えてきた。
 シルバーの車は駅を前にして左折した。いったいどこまで逃げ続けるつもりなのか。