小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ルナティック・ハイ

INDEX|14ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

 ビルの1階は駐車場。階段は下と上。影はどちらに好むかを考え、瑠流斗は地下に下りた。
 瑠流斗の前に立ちはだかる金属の扉。まるで金庫のような頑丈そうな扉だ。
 鍵はカードキーと暗証番号。下準備なしでは開きそうもない。
 瑠流斗は階段を上りはじめた。それとは逆に下りてくる足音が聴こえた。
 リボルバーを構えた瑠流斗は相手を確認せずに撃った――2発。階段を転げ落ちた男の2人だ。
 死んだ男たちはサイレンサー付きの銃を持っていた。相手もこちらを殺す気だったらしい。
 ビルに入ってすぐに、防犯カメラがあったことに瑠流斗は気付いていた。
 3人目以降が来る前に瑠流斗は2階の事務所に踏み込もうとした。
 ドアの鍵に弾丸を2、3発撃ち込んで壊し、足の裏でドアを蹴破った。
 待ち伏せしていた男たちが一斉に銃を撃った。
 銃弾を躰で受けながら、瑠流斗は1人ずつ確実に殺していく。最後に残った1人が事務所の奥に逃げる。
 瑠流斗は逃げる男の足を撃ち抜いた。ドアにもたれながら倒れる男。瑠流斗はゆっくりとその男に近づいた。
 落ちた銃を拾おうと伸ばした男の手を瑠流斗の足が踏んだ。骨の折れる音が響いた。複雑骨折だろう。
「地下室のドアを開けて欲しい」
「俺には無理だ……ギャッ!」
 踏み潰されている手に足の裏がねじ込まれた。
「?開けて欲しい?が、?開けろ?に変わる前に開けるんだ」
「外の鍵は開けられる……けど内鍵は開けられねぇよ」
「ふむ、用心深いことだ。なら外だけでいい、開けて欲しい」
 男に銃を突きつけながら歩かせ、カードキーと暗証番号を聞きだした。
 早速、瑠流斗は地下室に下りてドアの鍵を開けた。だが、問題はこれからだ。
「おそらく核シェルター並だろうね」
 つまり、雄蔵にとってここは最後の砦なのだ。
 問題は持久戦となったとき、雄蔵はどのくらいの月日を中で過せるか?
 1ヶ月か、1年か、それとも10年か?
 中にはそれなりの通信設備が整っているだろう。そうなると、中から外に指示を出すことは可能だ。だが、この砦は壊せなくとも、回線程度ならどうとでもなる。完全に雄蔵を孤立させることなど、容易いことだ。
 最終的な手段を取れば、入り口を溶接して固めてしまえばいい。
 しかし、あくまで瑠流斗の受けた依頼内容は?殺し?だ。中に入る方法を探すか、もしくは日本神話の天岩戸のエピソードのように、どうにかして外に出せる方法を探せなくてはならない。瑠流斗はプロだ。
 この帝都ならば、いくらでも方法はある。
 以前、強盗団のニュースが連日世間を賑わせていたことがあった。そのグループが数々の犯行を成功させた裏には、ある男の存在があったからだと後々わかった。その男とは物体透過能力を持っていたのだ。
 現在、特別な能力を持つ者の多くは、帝都の監視下にある。物体透過能力など、野放しにできる能力ではない。だが、それでも人の多く集まる帝都には、監視下を免れている能力者がいることも事実。
 瑠流斗はケータイをポケットから出し、どこかに電話を掛けた。
「もしもし、仕事を頼みたい」
 ある能力者をここに呼ぶ気なのだ。
 瑠流斗は2箇所に電話を掛け、数十分で来ると連絡を受けた。それまでの間、扉の前で片時も離れず待機することにした。
 だが、敵はそれを許してくれなかった。
 身を潜めているのだろう。だが、殺気を孕んだ空気が漂っている。何者かが階段の折り返したすぐそこにいる。
 壁の向こうに隠れていた男が姿を現し、いきなり発砲してきた。
 連射銃弾の多くは瑠流斗から外れ、男はすぐにまた壁の向こうに隠れた。
 瑠流斗はリボルバーを構えた。
 また男が姿を見せた。その一瞬を瑠流斗は逃さない。
 瑠流斗の撃った弾丸は男の腕を撃ち抜いた。だが、致命傷にはならずまた男は姿を隠す。
 これでは埒が明かないと瑠流斗が歩き出す。
 そのとき、壁の向こうから手だけが出た。握っているのは――手榴弾だ!
 瑠流斗のいる場所は2平方メートルほどあるが、とても手榴弾の爆発を避けられるスペースなどない。
 手榴弾は地面に付く前に爆発した。
 大量の煙幕が狭い空間を一気に制圧して、視界から何もかも奪った。
 あんな近距離の爆発に巻き込まれては、さすがの瑠流斗でもただでは済まない。普通の人間でも四肢が吹き飛び、躰はバラバラになるだろう。
 爆発の後はとても静かだった。
 やがて煙が徐々に治まり、ハンカチを口に当てた男が、瑠流斗の様子を見に来た。
 男の足元まで浸る浅瀬のような黒い血。もげた腕が無残にも床に転がり、両腕を失い片足がもげかかった瑠流斗が、ぴくりともせずうつ伏せに倒れていた。
 煙の中ではあまり良く見えず、男は静かな足取り瑠流斗に近づこうとした。
 しかし、その足が急に動かなくなった。
 物理的に動きを封じられたのではなく、それは恐怖だった。本能的に感じた恐ろしい恐怖。
 瑠流斗のもげかかっていた脚が再生する。
 そして、嗤い声が響いた。
「クククッ……」
 瑠流斗の両腕が一瞬にして生えた。
 そして、顔面に紅黒い血化粧した瑠流斗が立ち上がる。
 全身から血を滴らせ、白銀の美しい髪も、紅黒く染まっている。まるで瑠流斗ではないようだ。そこに別人が立っているようだった。
 眼にも留まらぬ速さで瑠流斗が動いた。
 動けない男の咽元を瑠流斗の爪が抉った。そのまま瑠流斗は男の頚動脈を噛み切った。
 首から噴き出る血を浴びながら、瑠流斗は死んだ男の上着を剥ぎ取り、腹に手を突き刺し内臓を引っ張り出して喰いはじめた。
 まさに狂気の沙汰。
 餓えた肉食獣のように、獲物の内臓から喰らった。
 戻らぬ男のことが心配になった別の男が様子を見に来た。だが、その悲惨な光景を目の当たりにするや、背中を見せて逃げようとした。
 逃げる男の背中に瑠流斗が飛び掛った。そのまま首を一気にへし折り、首を一回転させてもいだ。
 生首を持ちながら、瑠流斗は1階の駐車場に上がった。
 生臭い臭いが辺りに立ち込めた。
 瑠流斗を見た男たちが生唾を飲んで凍りついた。そして、1人の男の足元に放り投げられた生首。
 男たちは狂乱した。
 持っていた銃を乱射する。
 銃弾を受けながら瑠流斗は1人の男に襲い掛かり、首を抉って一気に仕留める。
 瑠流斗は次々と男たちを惨殺していく。
 肉を抉られた屍体から流れる血を嗅ぎ、瑠流斗は狂気の嗤いを浮かべた。
「……まだ血と肉が足りない」
 逃げようとしていた男の髪を瑠流斗は鷲掴みにして、顔を上に向かせるとそのまま眼に指を突き刺した。
 眼を潰された男は絶叫しながら走り出し、コンクリの壁に頭を激突させて死んだ。
 辺りから物音が消えた。
 瑠流斗の耳か微かに動く。
「……あとひとり、子羊がいるな」
 ぴちゃぴちゃと血の上を歩きながら、瑠流斗はゆっくりと獲物に近づいた。
 最後の男は車の影にしゃがんでいた。
 瑠流斗が現れても、男は焦点の合わない目で床を見つめるばかり。完全に正気を失っていた。
 男の前に肩膝をついた瑠流斗は、恋人にするように優しく男の顎を手に乗せ、自分の顔に相手の顔を向けて微笑んだ。
「君は綺麗な眼をしている」
 男は震えたまま逃げようともしなかった。