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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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機械人形アリス零式

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アリス観光ガイド03


 夏凛と〈エッグボマー〉の戦いは夏凛の優勢を決めていた。しかし、夏凛は決定打となる一撃を与えられずにいた。
 〈エッグボマー〉の爆弾は触れたとたんに爆発するため、避けることしかできない。一度に複数の爆弾を吐き出されたら、避けることに精一杯で攻撃をくらわすことができないのだ。
 大鎌を構えなおして夏凛は〈エッグボマー〉に攻め込んだ。
 案の定、〈エッグボマー〉の吐き出したエッグボムが夏凛に向かって飛んでゆく。それを紙一重で躱し、夏凛は踏み出した足を踏ん張ると、大鎌をブーメランのように投げた。
 風を切りながら回転する大鎌に向かってエッグボムが吐き出される。
 大鎌はあえなくエッグボムに爆砕され、あたりに硝煙が立ち込めた。その刹那、煌きと共に紅い筋が走り、〈エッグボマー〉の首が胴体からずり落ちたではないか!?
「あ〜あ、一本いくらすると思ってるの」
 頭を失った〈エッグボマー〉の前には、大鎌を構えた夏凛が立っていた。
 あのとき夏凛は、大鎌を囮にしてわざと相手に破壊させ、立ち込める硝煙を目隠しとして利用したのだ。そして、硝煙の中で異空間にストックしてある新たな大鎌を召喚したのだ。
「350万でございます」
 あっさりとアリスが答えた。すでにアリスは他の敵を片付けていた。
「安いほうのやつでよかった」
 350万でも安いらしい。他の大鎌はいくらするのだろうか?
 夏凛はコンクリの地面に転がっている大鎌の刃の部分だけを見つけ、それを力を込めて持ち上げて異空間の倉庫に収納した。
「柄の部分は壊れちゃったけど、刃だけ無事でよかった。柄だけの修理なら安く済むもんね」
「それでも浮遊樹の木材は高級品でございますから、100万以上はかかると思います。夏凛様のお使いなってる天然物の浮遊樹は、最近レートがだいぶ上がっているようです」
「やだやだ」
 と言って、夏凛は目の前に突っ立ている屍体を足の裏で蹴っ飛ばした。どすんと音を立てて首のない屍体は倒れ、極め付けに夏凛は転がっていた頭部を思い切り蹴っ飛ばした。
 放物線を描き飛んだ頭部などには眼もくれず、鈍い音が地下室に鳴り響く中、夏凛はにこやかにアリスに微笑みかけた。
「ひと段落したし、さっさとブレーカー探しに行こう」
「承知いたしました」
 夏凛が今した行為などなかったのようにアリスは応じ、二人はブレーカーを探しに地下室を散策することにした。
 ブレーカーは程なくして見つかり、ブレーカーを上げるが目に入る変化はない。この場所はメインシステムにより、もとから電気などが稼動していたため、ブレーカーを上げても本当に稼動したのかわからない。
 夏凛のケータイの着信音が鳴った。ナンバーディスプレイを見ると、真からの通話だ。
「もしもし、ちゃんと電気ついた?」
《稼動を確認した。内部システムにアクセスしている途中だ。これから順にセキュリティシステムを解除していく》
「どのくらいで解除できそう?」
《内部システムにアクセスするのに10分。セキュリティーシステムの解除はたいしたことはない》
「そんじゃこれから行くねー」
 通話を切った夏凛はアリスに顔を向けた。
「50階まで運んでくれる?」
「承知いたしました」
 空を飛べない夏凛はアリスに抱きかかえながら、さきほど通ってきたエレベーターの通路を上がることにした。

 50階の連絡通路に再び戻ったアリスは辺りを見回した。
 人々の様子になんら変わりない。イーストビルのセキュリティもまだ解除されていないみたいだ。
「草太様の姿が見当たりません」
 アリスが夏凛に向かって呟いた。
「なんか人の数増えてるし、どっかに紛れてるんじゃないの?」
 この場所に集まってくる人々の数は増えているようで、草太が人ごみの中に紛れてしまった可能性はある。
 人ごみを掻き分けて草太を探すが、やはりどこにもいない。この場所にいないとなると、階段に出てしまったのか?
 モーター音が鳴り響き、歓喜の声があがる。
 イーストビルの防火シャッターが上がっていく。
 シャッターが完全に上がる前から人々がイーストビルの中に流れ込んでいく。
「あたしはとりあえず真クンのとこ行くけどアリスちゃんはどうする?」
 夏凛に投げかけながらも、アリスは辺りを見回して草太を探し続けていた。
「草太様の捜索を続けます」
「真クンが捜索の手伝いをしてくれるかもよ」
「では、真様のところへ参りましょう」
 人の流れに乗りながらアリスと夏凛は先を急いだ。
 イーストビル内にあるエレベーターはどれも人で込み合っている。イーストビル内でも爆発事故が起こり、停電の中に人々が閉じ込められた。一刻も早く外の空気が吸いたいというのが普通だろう。
 しかし、都外の大事故が大事故にならない帝都では、通常業務に戻るの早い。外に非難せずに通常業務に戻っているオフィスも多いようだ。
 アリスたちは46階につくと、真に事務所を目指した。
 『cyber fairy』の看板が見てくる。電脳妖精[サイバーフェアリー]などという可愛らしい名前だが、この名こそが十数年前に帝都を賑わしたサイバーテロリスト――真のハンドルネームなのだ。
 事務所に入り、受付に挨拶をしたアリスと夏凛は関係者以外立ち入り禁止の真の部屋へ入った。
 灰色をした金属の壁に四方を囲まれ、配線プラグが足元や壁を這い、なにに使うのかわからない機器が並んでいる。まるで科学の実験施設のようだ。
 その部屋の真ん中の椅子に真は座っていた。彼の身体は全身からはプラグや生命維持のためのチューブが伸び、頭には目元まですっぽりと覆い隠すヘルメット型のスコープが装着されていた。そして、空中にはソフトボール代の球体が2つ浮かんでいる。
 謎の球体はマイクつき偵察カメラであり、そこを通して真は二人の客人を確認した。
「はじめまして、アリス。君のことはいろいろと知っている」
「はじめまして真様。わたくしも真様の噂はいろいろと聞いております」
「ところで、夏凛はアレの件で来たのだろうが、アリスが一緒なのは何か理由があるのかね?」
「連れの草太という人物がビル内で行方不明になったしまいました」
 アリスの横に立っていた夏凛がぴょんと一歩前に出た。
「そうそう、その子を探して欲しいんだよね。停電を直すのにアリスちゃんも協力してくれたんだよ。ねっ、だから、アリスちゃんのお願いひとつぐらいタダで叶えてあげて!」
 巻く立てるように夏凛は早口で言い、アリスも一押しした。
「お願いいたします」
「わかった、協力しよう。アリス、このプラグに接続して君のメモリーから草太のデータを転送してくれ」
 地面に転がっていたプラグが生き物のように動き、出されたアリスの手に収まった。そのプラグをアリスは、うなじを掻き分けて首の後ろにある差込口に力を少し込めて差し込んだ。
 アリスの記憶装置から草太のデータが真に転送される。流れ込むデータを受け取った真はすぐさまビル内の防犯カメラなどにアクセスして人物認証を開始する。