オヤジ達の白球 26話~30話
「すべては、おめえの対応次第だ。
付き合ってくれるなら、フルボトルを出してやってもいいぞ」
「俺の対応次第だって?。
なんでぇ。坂上のピッチング練習の見学とは別に、まるで何か俺に
別の頼み事でもあるみたいだな?」
「勘がいいな。相変わらず。
たしかにお前さんに、別件の頼みごとが有る。だがその件は後回しだ。
まずは坂本の投球の様子を、つぶさに見てくれ」
「こんな場所でこそこそウインドミルの特訓をするなんて、
了見の狭い奴だな、坂上も。
ど素人がいきなり見よう見まねで投げたって、絶対に上手くなんかならねぇ。
まずは自分の師匠になってくれる人を探して、徹底的に教わることだ。
スタートからして考え方が間違っているな、坂上のやつ」
「なるほど。お前さんもそう思うか。やっぱりな・・・
あいつ。全日本女子ソフトボールチームの監督だった宇津木妙子が書いた
ソフトボール入門という本を買って来たそうだ。
その中にあるピッチングの心得という部分を読み、ピンとひらめいたと、
坂上は言っている」
「本を読んだだけでウインドミルが投げられると思っているか、あの野郎。
どこまで発想が未熟なんだ、あの野郎は・・・」
熊が口を、への字に曲げる。
坂上はウインドミル投法を、甘く見過ぎている。
腰へ手を当てて手首を返す独特のタイミングを覚えるだけでも、1年以上かかる。
投手を目指すものは、この独特のタイミングを身体で習得するため、
歩行中も欠かさず、腰に手を当てるこの動作を繰り返す。
土手の上から熊と岡崎が見つめていることに気づかず、坂上が
投球練習に入る。
しかし。準備運動をするわけではない。
いきなり腕をぐるりと回したあと、ポンポンとグローブの中で
白いボルを躍らせている。
作品名:オヤジ達の白球 26話~30話 作家名:落合順平