夕景の正体
夕日の色調が一段階暗くなって、急冷された熱鉄球のような表面を見せていた。その表面は爛れたように剥がれて、そのまますうっとどこかに消えていく。そうして夕日は何かに隠されて仄かに明るい夜になってしまった。
ああ、消えてしまった。あの美しい秋の夕景は、明日も来てくれるだろうか。分からない。なんとなく今日が最盛期のように思えて仕方ない。あの夕景はまだ途中で、明日や明後日が最盛期であることを願う。
枯れ葉が一枚、私の近くにいる。夜風が冷たいのか、微かに震えているが、あれは枯れ葉の意思ではない。冬の意思だ。冬がもうそこまでやってきてしまっている。
途端に私はあることを思った。逆に、逆にだ。あの夕景が明日も、明後日も、その次も、雪景色の中でも続いたら、私はあの夕景を美しいと思うのだろうか。いいや、それはない。仮に夕景が青空と同等までの頻度で現れたなら、それはもう日々の鬱屈が乗り移って、なんだかつまらないものに成り果ててしまう。それだけは避けなければならない。あの美しい夕景を、あの一瞬を失ってはならない。
そう! あの一瞬なのだ。
私は飛んだ思い違いをしていた。永遠の中で、突然顔を出した夕景だからこそ、あれほどまでに美しいのだ。あれには日常を重ねてはならない。そうした途端、あのよくわからない美しさは向こうに隠れて日々の鬱屈が顔をだしてしまう。ああ、私はなんという簡単な思い違いをしていたのだろうか!
誰だ誰だ誰だ! あの瞬間を永遠に保存したいと言って、カメラを向けた者は!