オヤジ達の白球 21~25話
「桶屋の七助は最初の結婚と同時に、自分のお店を持つ。
でもね、運が悪いのよ、この男。
実の弟が店の金を持ち逃げしてしまう。さらに借金の肩代わりまで
させられる。
そのため江戸には居られず、夫婦2人で駿府城下へ逃れる。
駿府で住み込みで働く。でもね無理がたたって、女房が亡くなってしまう。
女房の死後。江戸へ戻って来た七助は、品川で店を持つ。
たまたま博打で大もうけをする。その儲けた金で、お米をいう女を
身請けし女房にする。
ところがこのお米が、なんとも性根の悪い女だ。
七助の目を盗んで、剣客の関山百太郎とただならぬ仲になってしまう。
その場面がまた、なんとも色っぽく書かれているんだよ」
「姦淫現場の描写か。やるねぇ、池上正太郎も」
『そんなに飲んでは、傷に悪いんじゃないかえ』
『なあに、傷というほどのものではないよ』
冷酒を飲み干した茶わんを置いた手を伸ばし、関山は女の身体を引き寄せた。
女は髪を、無造作な櫛巻にして、子持ち縞の素袷の腕をまくり、
これも茶わん酒を飲んでいる。
はだけた胸もとから乳房がはみ出しかけてい、酒の火照りで喉元も
胸も赤く染まっていた。
『ああ、百さん、たまらないよう』 女は、ふとやかな双腕で
関山百太郎の頸を巻きしめ、嬌声をあげる・・・・』
「まずいなぁ。
そんな現場へ亭主の七助が乗り込んで来れば、切り殺されても、
何の文句もいえねぇな」
「関山がいつまでも家に居座り、お米を抱いていることを知り
怒り狂った七助は隙を見計らい、関山を刺し殺してしまう。
妻も殺したあげく、江戸から逃げ去ってしまう。
でもね。このケースでも、間男である関山百太郎を殺してしまった夫の
七助は、全くの無罪と言われています」
「間男は、亭主に殺されても江戸時代では仕方ねぇのか・・・・
なるほどねぇ、
悪事は自らの身を滅ぼす元になるんだ、怖いねぇ、まったく」
「もうひとつ。
八巻目の『狐雨』にも、男女の姦淫事件が登場してくるんだよ」
(26)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 21~25話 作家名:落合順平