罠だ! ライダー!
「油断するな、カワウソは肉食性なんだ、鋭い爪で狩をして発達した歯で骨まで噛み砕く、手足が短い体は水中でも敏捷に動けるし、水かきも持っている」
「ほう、なかなかの戦闘力なんだな」
「ああ、それに古来カワウソは人を化かすと言うな」
「なるほど、大人しそうに見せかけて実は凶暴、人を化かすのも得意とはな、正に奴にぴったりだな、奴は俺に任せてくれるか?」
「いや、奴だけは生け捕りにしたい」
「なるほど」
「策があるんだ、私に任せてもらおう」
安藤がカワウソ男に変身したのを合図にしたように、残り3対の怪人も姿を現す。
「ありゃパンダ男だな、またもや子供たちの夢を壊すようなマネを」
「マッスル、ああ見えてパンダは強暴だぞ、力も強い、君に任せて良いか?」
「おう、望むところだ」
「あれは猫女ね」
女怪人の出現にレディ9が反応する。
「失礼ね、猫娘と呼んで欲しいわ」
自ら猫娘と名乗る女怪人だが……。
「う~ん、娘と呼ぶのは無理があると思うわ、どう見てもアラフォーでしょ? サバを読みすぎじゃない?」
「きぃっ! 猫は人間より寿命が短いのよ! こう見えてもティーンエイジャーなんだから!」
「そのわりに尻尾が二股に分かれてるようだけど?」
「あんた、言いたい放題じゃない? あんたの相手はあたしよ!」
「レディ9、アレは君に任せるが、気をつけろよ」
「わかってる、いわゆる猫又ですものね、妖術を持ってるかもしれない、でも、だったらやっぱり相手はあたしよ」
「大きな翼を持っている怪人だな、鷲男か?」
「いかにも、ライダー、ワシの急降下攻撃を受けられるかな?」
過度に尊大な態度、だがそれだけの力はありそうだ。
「ライダー、鷲はさまざまな地域で力の象徴にもなっている、空を飛ぶ相手にはやはり君の跳躍力がなければ対応できない、だがくれぐれも……」
「わかっているさ、ライダーマン、油断などしないさ」
かくしてショッカー本部前の荒地で四極に分かれての戦いが始まった。
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
ブン!
パンダ男が熊猫パンチを繰り出し、マッスルはかろうじてそれをかわした。
「ほう、見た目よりスピードがあるんだな」
「スピードだけじゃないぜ」
次に繰り出して来た熊猫パンチをマッスルがよけると、そのパンチは岩を砕いた。
「危ねぇ危ねぇ、こいつを食らったら強化スーツを着ていてもただじゃ済みそうにねぇな」
「俺の武器はパンチだけじゃねぇぜ」
パンダ男は得意のでんぐり返し、しかし遊んでいるわけではない、でんぐり返しを連続するうちにみるみる加速し転がる岩のようになってマッスルを襲う、しかしマッスルはそれをがっちりと受け止めた。
「お前はパワー自慢のようだが、パワーなら俺も負けないぜ」
「だが、お前にこれはないだろう?」
「うおっ!」
マッスルに受け止められたパンダ男がマッスルの肘に噛み付いたのだ。
「パンダは草食だと思ってないか? 実は雑食なんだよ、しかも竹をバリバリと噛み砕くこの牙と顎は強力だぜ」
パンダ男は噛み付いた肘をぐいぐいと引っ張る、このままでは噛み千切られてしまう。
「ならばこうだ!」
「ぐぇっ!」
マッスルは噛み付かれた肘を引くのではなく、逆に押し付けるようにして至近距離からの体当たり、体重が後ろにかかっていたパンダ男は堪らずにひっくり返り、後頭部をしたたかに打ち付けた。
「うむ……牙が多少食い込んだ様だが傷はそう深くないな……強化スーツに感謝だぜ」
「くそっ!」
怒りに任せて突進するパンダ男、それをかわしながらパンチを打ち込むマッスル。
戦況はマッスル優位と見えたが……。
「マッスル! そこは!」
セイコの声にマッスルははっとした。
ゴ……昆虫式神が詳細に調べ上げた罠の数々、今マッスルが背にしているのは底に無数のナイフが立てられた深い落とし穴の縁だ、次の突進をまともに受ければ落とされてしまう、しかもパンダ男は至近距離からの突進の構え。
「ままよ!」
マッスルは背後へと大きくジャンプした。
落とし穴の広さまでは詳細にわかっていない、だが活路はそこにしかないのだ。
スタッ。
「ふ~……どうやら飛び越せたようだな」
「うぐぐぐぐぐ……」
パンダ男が歯噛みしている、もう一息でマッスルを始末できたのに、という無念さからだ、だが、パンダ男も当然そこからは突進できない、
「いいものがあったぜ」
マッスルが手にしたものを見てパンダ男の顔色が変わった……おそらくは……。
マッスルは手にしたものをパンダ男に向かって転がす……トラックの古タイヤ、足腰の訓練などに使うために積み上げてあったのだ。
「ぐぅぅぅぅぅぅ」
パンダ男がぶるぶると震え始める。
遊びたい……タイヤを目にしてパンダの本能とも言うべき遊び心に突き動かされているのだ。
「ほら、ほれ、もう一丁」
4本目のタイヤは大きく弧を描いて転がり、抗し難い中空の輪がパンダ男の目の前に……パンダ男は本能に負けた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ……」
パンダ男はタイヤに顔を突っ込んだまま奈落の底へと落ちて行った。
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「猫熟女!」
「きぃっ! 猫娘と仰い!」
「あら、熟女って別に蔑称じゃないわよ、あたしだって四捨五入すれば30代だもの、熟してるって言われて別に悪い気はしないけど?」
「それでもあたしは猫娘なの!」
猫娘こと猫熟女の動きは敏捷だ、そして鋭い爪も露わに猫パンチを繰り出し、牙を剥いて噛み掛かって来る。
しかし敏捷性ではレディ9も負けてはいない、猫娘こと猫熟女の攻撃をひらりひらりとかわして行く……猫の弱点のひとつはスタミナ、瞬発力に優れている分、スタミナには欠けるのだ。
「ふ~っ、ふ~っ、ふ~っ……あんた逃げてばっかりでとんだ弱虫ね」
「何とでも仰いな、あら、スタミナ切れ? 歳は取りたくないものね」
「きぃっ!」
猫娘こと猫熟女は悔しがるが、スタミナ切れは如何ともしがたい、ならばと、やおら手ぬぐいをかぶって踊り始める、一種の催眠攻撃、ついつい同じように踊りながら後に付いて行きたくなるのだ、だが、忍術を修めたレディ9、日本の妖怪が使う妖術に関しては熟知している、催眠にかからないよう、密かにクナイを手にして指先に傷をつける、その痛みで正気を保つのだ。
レディ9はそうやって正気を保ちながらも、妖術にかかった振りをして猫娘こと猫熟女の後を追うように踊り始める……ほくそ笑む猫娘こと猫熟女、このまま地雷原に誘い込もうとしているのだ。
そのレディ9の前に一匹の赤とんぼが現れ、意味ありげに飛び回る。
(晴子ちゃんの式神ね……何を伝えようと……)
赤とんぼは猫娘こと猫熟女の足跡にとまっては飛び立ち、次の足跡に……。
(もう地雷原に入っているのね、この足跡を正確に辿ればセーフ、外せばアウトってことね……そうだ……)
レディ9は踊りながら猫じゃらしを一本引き抜き、クナイに結びつけると猫娘こと猫熟女の前にふわりと投げた。
「えっ?……」