④冷酷な夕焼けに溶かされて
「それに、そもそも女らしい女に興味ない。」
「えっ。」
驚いて顔を上げると、支えるように顎をそっと持ち上げられた。
「女を武器に迫られると気色悪いし、うじうじめそめそされると虫酸が走る。」
吐き捨てるように言うミシェル様に、思わず私は吹き出してしまう。
「では、今度からデューにいた時のようにふるまいます。」
「…。」
「デューでは鍛練を欠かさず、いつ呼んで頂いても良いように、備えておきます。」
「…ニコラ…。」
初めてデューの名前で呼ばれ、一瞬嬉しくなったものの、すぐに不安な気持ちが頭をもたげた。
「…ルーナ、ではないのですか。」
「…。」
無言で私を見つめるミシェル様に、その不安は的中したのだと確信する。
「ルーチェの名で…ミシェル様がつけてくださった名で、呼んでください。」
ふるえる声で懇願するように言っても、ミシェル様はただじっと見つめるばかりで眉ひとつ動かさない。
「そんなに、不要ですか?」
ポロポロと再びあふれ始めた涙に、ミシェル様がようやく眉根をぎゅっと寄せて目を逸らした。
「めんどくさ。」
吐き捨てるように呟くと、私をベッドへ転がして素早く身を起こす。
「おまえも所詮、女だな。」
嫌悪感あふれる言葉を残して、ミシェル様はそのままテントから出て行った。
「っ!」
名前を呼びたいのに、声が出ない。
ただただ、首の痛みよりも、心が痛かった。
作品名:④冷酷な夕焼けに溶かされて 作家名:しずか