「美那子」 浮気 二話
「お母さん!挨拶しないと」
そう美那子に言われて、慌てて、
「三枝さんもお仕事頑張ってくださいね」
と後ろから声をかけた。
振り返ってさらに笑顔になった三枝は唇に手を当てて、投げキッスをした。
秀一郎はこれで母と三枝の関係を確信した。
「まあ、三枝さんって、素敵な人ね。お母さんに投げキスしたよ」
美那子は笑いながら母の顔を見た。
母は笑ってはいなかった。
ここは笑うべきだっただろう。しばらくしてそう気づかされたが遅かった。
旅行会社が用意したジャンボタクシーに乗って、観光を済ませると宿泊先のホテルへ入り、用意されたウェルカムドリンクを飲みながら部屋の案内を待っていた。
ロビーで数人の女性の団体がおしゃべりをしていたが、よく聞く方言に同じところから来ているんだと秀一郎は感じていた。
「永田様、お待たせしました。お部屋にご案内させて頂きます」
そう言われて三人はエレベーターに乗り三階の部屋に通された。
仲居がお茶を入れて館内の案内をした。そして江戸時代から続く歴史ある露天風呂が少し離れた場所にあるので是非利用して欲しいと付け加えた。
「この時期昼間は暑いので、陽が落ちたらぜひみなさまで行かれてみてください。ただし混浴ですので女性の方はロビーで浴衣を貸出ししていますのでご利用ください」
「ありがとうございます。浴衣が着られるなら安心ですから利用したいと思います」
美樹はそう答えた。
美那子は笑いながら、
「お兄ちゃんは裸なんだよね?」
仲居は少し笑いながら、
「男の方はタオルで隠れますから」
三人は顔を見合わせて大笑いした。
夕飯の前に利用しようと三人はロビーで二着浴衣を借りて、旅館の下駄を履いて露天風呂へ向かった。近づくと笑い声が聞こえてきた。到着したときにロビーで騒いでいた女子の団体が入浴していたのだ。
運が良いと言うのか悪いと言うのか、男性は居なくて秀一郎だけとなった。
ジロジロと見られる中で三人は離れたところで入浴した。
美那子が言葉を聞いて同じ名古屋だと感じて話しかけた。
作品名:「美那子」 浮気 二話 作家名:てっしゅう