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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Blackbird

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 真っ暗な山道を時速百キロで抜けると、見慣れた下り坂の先に苅野の家が見えてきた。スカイラインのヘッドライトを消して、畑に続く細い道へと入る。一台車が停まっているのが見えて、神崎は二二口径を抜くと、家まで走った。車庫から家へ続く階段に足をかけると、一度深呼吸をしてからドアを開けた。廊下は空っぽで、電気が点いていた。神崎は台所を覗き込んだ。コンロにかけられたやかんが、湯気を立てている。火を止めて廊下に出たところで、奥の手術室から革靴の一部が見えていることに気づいた。手術室に入った神崎は、うつ伏せになって倒れた男の頭が、半分消し飛んでいることに気づいた。その先には、薬室が開いて煙を吐いている散弾銃が転がっていて、苅野が仰向けに倒れて死んでいた。眠っているようだったが、右目の代わりに真っ黒な穴が空いていた。
 手術台が空っぽになっていることに気づいた神崎は、二二口径を構えたまま廊下を覗き込んだ。二階へ続く足跡がある。土足で上がったのは、自分だけのはずだ。二階へ続く階段を上がろうとしたとき、大きな音が鳴り、直後に男が階段を転がって落ちてきた。階段を伝って消火器が落ちてきて、その底がひしゃげているのを見た神崎は、男の頭を見た。頭蓋骨がパンクしたサッカーボールみたいになった男は、自由の利かない片目をぎょろぎょろと動かしていたが、すぐに死んだ。
 同時に、後頭部に銃口の感触を感じた。神崎は思った。銃口をくっつける奴は素人だ。空いた手で振り向きざまに銃を振り払い、自分が優位に立っているということを未だに信じ続けているような顔に向けて、頭突きを入れた。鼻が折れて血が吹き出し、男は尻餅をついた。神崎は二二口径を床に捨てると、顔を蹴り上げた。間髪入れずに馬乗りになると、四年前にやったのと同じように、体重を乗せて男の顔を殴った。五発目で男の眼窩が折れ、眼球が飛び出した。神崎は血まみれの手で二二口径を拾い上げると、額の汗を拭った。気配を感じて銃口と共に振り向いたとき、飛んできた手が二二口径を横向きに払った。その手をすかさず掴んだ神崎は、逆手に捻って後頭部に銃口を突きつけた。
「おれは敵じゃない」
 手を離すと、女は捻られた手をかばうようにしながら、神崎を見た。
「何人いた?」
 神崎の質問に、女は消火器で頭を破壊された男の死体に視線を向けると、呟いた。
「……三人」
 神崎は苅野の傍らに落ちた散弾銃を拾い上げると、開きっぱなしになった薬室を閉じて、新しい弾を装填した。無言で、自分が殴り殺した男と、女が消火器で殴り殺した男の頭を、続けざまに吹き飛ばした。散弾銃を元の位置に戻すと、独り言のように言った。
「誰がやったかは、これで分からない」
 テーブルの上に置かれたマイクロスコープと、真っ白に光るライト。その隣に免許証と健康保険証が置いてあった。神崎はそれを手に取ると、手術室から出た。待っていた女の頭から爪先までを、改めて一通り確認した。苅野が服を買ってきてくれと言った理由が、何となく分かった。
「そのジャージは目立つな」
 上下真っ赤なジャージを着た女は、初めて気づいたように視線を自分の服に落とした。神崎が免許証と健康保険証を手渡すと、それぞれに書かれた名前をじっと見つめた。
「読める?」
 女はうなずいた。神崎は手で促しながら言った。
「声に出して」
「姫浦絵梨」
 違和感を消そうとするように頭の中で繰り返している様子を見ながら、神崎は思った。
 かつてのおれと同じように、この子の人生は延長された。同じ道を歩むこと以外に選択肢はない。そうと決まれば、できることはただ一つ。
 今までに自分が得た、全てを教える。『天秤』が最後に、おれに託した仕事。 

 どんな手段を使ってでも、この子は死なせない。
作品名:Blackbird 作家名:オオサカタロウ