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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トラブルシューター夏凛(♂)1 堕天使の肖像

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 大声を張り上げるファウストの身体からナイトの形をした精霊から大蛇の怪物の形をした精霊までありとあらゆる精霊たちが次々と放たれ堕天使に襲い掛かる。
 襲い掛かる精霊たちを堕天使は向かい討ち、次々といとも簡単に消滅させて行く。しかし、ファウストの攻撃は無駄ではない、確実に堕天使身体は少しずつ傷付けていっている。
 堕天使が怒号の咆哮を上げた。怒りでその全身は紅蓮の業火に包まれ、髪は獅子のように荒立ち、獣のような両眼は紅く変わりファウストを睨み付けていた。
「許さぬぞ下賎な人間風情がっ!!」
 怒りで逆上した堕天使は風を切り裂きながら移動し、ファウストを己の爪で切り裂いてやろうと襲い掛かった。
 ファウストはすぐさま防護壁を魔法で構築し堕天使の攻撃を待ち構える。がしかし、防護壁はいとも簡単に堕天使に八つ裂きされファウストごと切り裂いた。
 防護壁のお陰でだいぶ攻撃を軽減できたが、ファウストの胸は切り裂かれ鮮血が大量に噴出した。彼の受けた傷は重傷だった。
 魔力を維持しきれなくなったファウストはゆっくりと地面に着地し、そのままよろけるようにして地面に背中から倒れた。
 堕天使がファウスト目掛けて急落下をはじめた。堕天使はこのまま落下しファウストの心臓を爪で突き刺し、抉り取るつもりだった。しかし、爪が心臓に突き刺さる寸前ファウストが呟いた。
「いいのか私を殺しても?」
 心臓を突き刺そうとした手は止まり、全身も止まった。そして、姿は絵画から出てきた時と同じように美しい姿に戻っていた。
「どういう意味だ?」
「私はお前の秘密を知っている。お前ははあくまで絵画から出て来た偽者であって本物では決してない。言わば張りぼてのようなもの。魔導を使うたびに身体は衰弱し、普通の方法では傷すら癒すことができない」
「何が言いたいのだ?」
「傷を癒す為には一度絵の中に戻り、誰かが絵の中に一緒に入り魔導を駆使して絵を修復してもらう必要がある。そう私は聞いた」
「確かにそうだ」
「この世界にはもう私以外にお前を修復してやることのできる奴は存在しない。取引をしよう」
 窮地に追いやられたファウストは取引を持ちかけ堕天使の虚を突いた。
「私と取引だと」
「ああ、魂の取引だ。君たちは好きだろう人間との契約が」
 古来より悪魔たちは人間との間で数多くの取引をしてきた。悪魔たちはむやみに人間の魂を奪うことはない。願いを叶えるなどという誘惑のもと、人間との間で自由意志によって契約を交わし代償として魂を奪う、決して悪魔は強引な取引はしない、それがスマートな悪魔のやり方だ。
「取引の内容を言え」
「私と賭けで勝負をしよう。私が負けた場合は未来永劫地獄の楔に魂を繋がれ、お前の絵を修復し続けよう。ただし、私が勝った場合は速やかに絵の中へ戻れ、そして、私は再びお前が出てこられないように封印を架ける」
 果たして堕天使はファウストの取引に応じるのだろうか?
 ややあって堕天使が口を開いた。
「賭けの内容は私が決める」
「いいだろう」
「あそこに男がいるだろう」
 後方を振り向き堕天使は、遠くで地面に這いつくばる夏凛を指差して話を続けた
「あの男に一番求めているもの、一番欲しいものの幻影が魅せる。その幻影に手を決して触れてはいけない。触れずに出口を出れば私の負けだ」
 賭けの命運を分けるのは夏凛だった。
 堕天使はどこからか羊皮紙で作られた契約書を取り出すとファウストに手渡した。ファウストはそれを片手で受け取ると地面に寝転びながら目を通した。
 契約書はヘブライ語で記され、契約についてこと細かく書いてあった。その契約書にひと通り目を通したファウストは自分の親指の皮を噛み切り血を出し、契約書にサインした。
 ここに悪魔との契約は成立した。
 堕天使は契約書を取り上げると口の中に放り込み胃の中に保管し、夏凛の元へと歩み寄った。
「契約の話は聞こえていたか?」
「もちろん」
「ならば話は早い。開かれた黄金の扉が出口だ」
 堕天使は夏凛の傍らにしゃがみ込み笑みを浮かべると、夏凛の目を覆い被すように優しく片手を当てた。
 視界を閉ざされた夏凛は眠気にも似た感覚に襲われ、そのまま意識を失った――。

 どこまでも白く何もない空間。しかし、そこは居心地が良く、心温まる場所だった。
「ここが幻影?」
 夏凛はスカートの裾をふわりと巻き上げながら一回転し辺りを見回すと、開かれた黄金の扉があった。あれが出口だ。
「何が出てきても触れてはいけない……」
 さっさと外に出てしまおうとした夏凛であったが、出口のすぐ横の空間の中から何かが滲み出すように出てくる。何が出てくるのかと夏凛が目を凝らしていると、それは徐々に人間の姿へとなった。
「兄さま!?」
 夏凛の目の前に現れたのは、なぜか上半身裸で両手をいっぱいに広げている時雨だった。
「夏凛愛してるよ、さあボクの胸に飛び込んで追いで」
「兄さまぁ〜」
 夏凛は時雨の幻影に駆け寄り、あっさりと抱きしめ押し倒した――。

 ――夏凛が現実の世界に戻ると彼の目の前には絵画あり、その中に堕天使とファウストの魂だけが入って行くのを見た。
 賭けに負けたのだ。
 夏凛は直ぐに絵画を壊してしまおうとして大鎌を構え絵画に斬りかかったが、大鎌の刃は絵画との距離を数ミリにして止まった。絵画には結界が張られていて手も足もでなかった。
「クソッ、どうなってんだ!?」
 戸惑う夏凛の目の前で、信じられないことが起こった。突然、抜け殻であった筈のファウストが動き出し、夏凛を押しのけて呪文の詠唱をはじめたのだ。
 ファウストの魂は、まだ、この世界にあったのだ。
 事前にファウストの身体の中には人工魂を入れてあった。そして、天使と絵の中に入って行ったのはその魂だった。
 そのことに気付いた堕天使は狂気の形相でファウストを殺そうと絵画から出ようとしたが、それはあと一歩の所で失敗した。ファウストの術が完成したのだ。
 絵画に封印を架け終えたファウストは、それが最後の力だったらしく地面に背中からバタンと倒れ気を失った。
「やっと仕事終わったぁ〜、でもこれからもう一つの仕事だよぉ〜っ!!」
 夏凛もまた、そう叫ぶと地面に背中からバタンと倒れて気を失った。
 天高く輝く太陽の光は、静かな寝息を立てる夏凛をいつまでも優しく照らしていた――。

 絵画はその後、帝都政府の管理の元に帝都のどこかに厳重に保管されているという。
 保管されている絵画には凄い形相をした天使が描かれ、その絵からは何かを握り締めようとする右手だけが外の世界に出ているというが、これはあくまで噂であり、真実とどうかまでは定かではない――。

 堕天使の肖像(完)