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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トラブルシューター夏凛(♂)1 堕天使の肖像

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終章 悪魔の取引き


 モマンカンパニービルから天へと光の筋が昇って行くのが見えた。
「おもしろいことになっているようだな」
輝く銀色の長髪を風圧になびかせながら、煌びやかな法衣に身を包んだ長身の男は、そう楽しそうに言った。
 この光景をビルの近くから見ていた男はファウストだった。
 ビルの上空まで上がった堕天使は身体を大きく広げ力を解き放った。見えない力の風によって夏凛の身体は大きく飛ばされてしまった。
 上空五〇メートルの高さから落下し、ビルからだいぶ離れた所に軽やかに着地した。
 夏凛はあからさまに嫌な表情をした。
「なんで師匠がいるの?」
夏凛の視線の先にはファウストが微笑を浮かべ立っていた。
「仕事に来ただけだよ」
「帝都政府のエージェントは師匠意外に何人動いてる?」
「私だけだ。この兼に関しては、処理できる人物は私しかいないからな」
 自信満々の笑みを浮かべるファウストに対して、夏凛は上空にいる堕天使をビシッと指を差し言った。
「じゃあ早くやっつけちゃってよぉ〜」
「私とて奴を倒すのは無理だ、絵画自体を封印するのが限度だな」
「じゃあ早く封印してよ」
「ふっ、今言っただろ『絵画自体を封印するのが限度』だと。外に出た奴の力はオリジナルに匹敵する、まさに破壊の神だ。私にできることは絵画の中でおとなしくしてる奴を封印するだけだ」
「はぁ!! んだと、このインチキ魔導士、一〇〇〇以上生きてるクソジジィが!!」
 夏凛の態度が急に急変した。それを見たファウストはニッコリと笑った。
「それでこそ夏凛だ、そちらの方が君らしい。それに私に向かって『クソジジィ』は失礼だぞ、これでも身体と心は二〇代のままだ、ふっ、出来の悪い弟子にはお仕置きをしなくてはな……」
 そう言うとファウストはどこからか杖を取り出し天に掲げた。杖の先端に取り付けられた蒼い魔玉が煌めいた。その瞬間夏凛の身体が地面に吸いつけられるように引き寄せられ、腹ばいの状態で地面に身体を強く叩きつけられた。
「ぐっ……何すんだジジィ!」
 冷ややかな目でファウストは夏凛のことを見下すように見た。
「君の身体に悪魔との融合手術を施したのは私だ。その際に行った魔術によって君の身体は決して私には刃向かえない」
「ざけんなっ! 俺様はそんなことして欲しいなんて頼んでねぇよ、性格歪んでるぞテメェ!!」
「そんな素晴らしい身体を与えて貰っていて、その言い草はなんだ」
「気に入るかこんな身体! 早く俺様の身体を”女”に戻しやがれっ!!」
 衝撃の告白だった。夏凛はなんと元女だったのだ。
「君のその言動、その性格にはその身体の方がお似合いだ」
「クソっ!!」
 夏凛は身体を動かそうとするが、全く動かない。
「夏凛はそこで頭を冷やしていろ」
ファウストはそう言うと全神経を集中させ、レビテーションと呼ばれる空中浮遊の術を使い空へと舞い上がった――。
 その場に残された夏凛は憤怒の念が身体に底からふつふつと煮えたぎるようにして全身を沸騰させた。
「俺様はファウストの弟子でもなけりゃー、魔導士でもない、ただの被害者だっ!!」
 夏凛は確かにファウストの弟子でもなければ、魔導士でもなかった。
 夏凛には当時小さかった頃、仲の良かった近所のマナお姉さんという人がいた。そのマナお姉さんは魔導士の卵でファウストの元で修業をしていたのだった。マナお姉さんと仲の良かった夏凛はファウストの元へ遊びに行くことが多く、ある日のこと、事件を起こし夏凛とマナお姉さんはファウストの怒りを買い、罰としてある魔法実験の実験台にされたのだった。そして、夏凛は悪魔との合成手術をされ、色々な特殊能力と、それに加えて男の身体を与えられたのだった――。
「あれから一〇年近く経つけど、いつか絶対復讐してやる!」
 だが今の夏凛は動くことすらできなかった。
 ファウストは堕天使に戦いを挑む。
「人間風情が私に刃向かうだと? おもしろい」
 堕天使の身体から無数の顔を持った光が叫び声を上げ、まるでミサイルのようにファウスト目掛けて飛んで行く。
「ふっ、人間風情だと? 私はヨハン・ファウストだ!!」
 大声で叫んだファウストは身体全身から光のオーラが揺らめく風のように発され、空間を歪め堕天使の放った光を全て消滅させた。
「ほほう、人間にしてはなかなかだ」
「お褒めの言葉有り難う」
冷ややかに言うファウストの身体から白い煙のようなものが立ち上がり形を作り出していく。
 煙は徐々に美しい女性へと形作っていく――。腕の代わりに生えた巨大な翼、その姿はまるで伝説に語られる半人半鳥の美しい歌声を持つと言われる海の魔女セイレーンに似ていた。
 半透明に輝き揺らめく美しい女性は、甘える仔猫のようにファウストに擦り寄った。
「私の持ち霊のザイン、意味は剣と装甲。私の恋人だ」
「精霊を身体の中に封じて置いたのか」
 精霊は声にならない音を発した。音の波が空間に歪ませ壁のように堕天使に押し寄せ潰そうとする。
 音の壁は円筒形の筒のように堕天使を取り囲んでいる。その壁に押し潰されまいと両手を広げ、力を込める堕天使に精霊は翼を大きくはためかせ、剣のような羽根を何百本発射した
 鋭い剣のような羽根は空気を切り裂きながら、音の壁を突き破り硝子が粉々になるように砕け散り、そして羽根は堕天使の身に突き刺ささる。
 堕天使は慈愛の笑みを浮かべていた。その身体には無数の羽根が突き刺さり剣山のようになってしまっていて、さながらそれは拷問のようである。しかし、血は一滴も流されていない、それどころではない、羽根はなんと堕天使の身体に取り込まれていくではないか。
 美しい精霊は声にならない咆哮を上げ堕天使に襲い掛かった。
「格の違いというのを知らんらしい」
 そう言った堕天使は片手を上げ、手のひらを襲い掛かって来る精霊に向けるとグシャリと何かを潰すような動作をした。すると驚くべき出来事が起きた。なんと、堕天使の手の動きに合わせて精霊の身体がグシャリと潰れてしまったではないか!
 そして、もっと驚くべくことに天使の腕がぐぐっと伸び、潰された精霊を鷲掴みにすると手を戻し、信じられないほどの大口を空けるとその中に放り込みむしゃむしゃと咀嚼をして飲み込んだ。
「何の足しにもならんな」
「まさか精霊を喰うとは!?」
 堕天使の力は人間の手に負える物ではない、圧倒的な力だった。しかし、『帝都の申し子たち』と呼ばれるひとりであるはファウストは果敢にもそれに立ち向かった。
「神への反逆者、ふはははは、おもしろい。おもしろい、このファストを楽しませておくれ」
 この帝都には『帝都の申し子たち』と呼ばれる人々が存在する。彼らの力は人間のチカラとは思えない能力を兼ね備えていて、多くの謎が持ち、まるで帝都の為にあるような人々。帝都と共にある、それが『帝都の申し子たち』だ。
 ファウストは内に秘めていた力を解放した。閃光が彼の身体からまるでミサイルのように次々と堕天使に向かって蛇のようにうねりながら飛んで行く。
 しかし、その攻撃は全て堕天使の身体へと吸い込まれて行く。だがファウストにはそんなことわかっていた。
「まだだ、まだだまだだまだだっ!!」