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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トラブルシューター夏凛(♂)1 堕天使の肖像

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「頭の悪いヤツだ、僕は魔導を勉強していたと言っただろ。この位の事できて当然、君も魔導士の端くれならわかってもいいと思うけどな」
 『魔導士の端くれ?』 夏凛が魔導士の端くれとはどういうことなのだろうか?
「魔導士の端くれだって? 私は清掃員兼トラブルシューターだ」
「君がファウストの弟子であり、そのファウストに施された君の特異体質についても調べがついてるよ」
 床に膝を付く夏凛の目つきが変わり、狼男を鋭い目で睨んだ。
「私は好きでこんな身体になったわけじゃない。ファウストが勝手にしたことだ」
「しかし、その体質が大いに仕事に役立ってるじゃないか。僕が知ってる君の能力は身体の重さや強度を変えるものだけだけど、他にもあるんだろう、おもしろい能力が?」
「あまりその話については触れられたくないな」
 そう言うと夏凛は素早く移動し狼男の視界からその姿を消した。
「僕の超感覚を見くびってもらっては困る」
 狼男の腕が大きく横に振られ何かにぶつかった。
「くっ……」
 そこには狼男の腕を鎌の枝で受け止めた夏凛の姿があった。
「まだまだだね」
 口から鋭い牙を覗かせながら笑うと、狼男は残りの腕を大きく振りかぶり夏凛の顔面へと強烈な一撃を喰らわした。
 痛烈な一撃を喰らった夏凛の身体はその勢いで飛ばされたが、彼は決して大鎌を手放すことはなかった。
 顔を押えうずくまる夏凛。しかし、手で覆われた顔から覗く口元は微かに笑っていた。
「俺様の顔を殴るなんざ、いい度胸してじゃねえかテメェッ!!」
 夏凛はコンクリートの地面を砕く勢いで地面を蹴り上げ、大鎌を大きく振り上げながら狼男に襲い掛かった。
「それが君の本性か……何っ!?」
 狼男の表情が曇る。夏凛が視界から消えたのだ、しかも先程とは違い、狼男の超感覚を持ってしても夏凛の位置を特定することができない。
「どこだ、どこに消えた!!」
 声を荒げ大声を上げる狼男の目の前に大鎌を優雅に構える死神が現われた。
「俺様をナメるんじゃねぇぞ、このクソガキがっ!!」
 突如現れた死神によって狼男の胸は大きく切り裂かれ、傷口から黒血が噴出し、不敵な笑みを浮かべる死神の顔を真っ赤に染め上げた。
「ぐおぉぉぉっっっ!!」
 咆哮を上げる狼男の胸を再度死神の大鎌が切り裂いた。クロスされた傷口から大量の血を噴出しながら、狼男はそのまま後ろに引っ張られるようにしてバタンと勢いよく音を立てながら倒れた。
「俺様の顔を殴ってこれくらいで済んだことに感謝しろ」
 そう言って夏凛は大鎌を大きく天上高く振り上げると、口の端を吊り上げ鼻で笑うと大鎌を狼男の胸へ振り下ろし突き刺した。
 狼男の身体がビクンと一瞬振るえ、そのまま動かなくなった。
 凍り付いたような表情を浮かべた夏凛は大鎌を狼男の胸に突き刺したまま手を放すと、急に後ずさりするようにその場から離れた。
「な〜んちゃって」
 夏凛は苦笑いを浮かべながら、強張った表情でそう言った。『な〜んちゃって』とは何に対しての言葉なのだろうか?
「さ、さてと、そうだ絵画は、あ、あ、そ、それよりもさっきのナイフをどうにかしないとダメかなぁ〜」
 夏凛は明らかに動揺していた。先程の『な〜んちゃって』は狼男を倒した時の自分の言動及び態度に対するものだった。
「ナイフ、ナイフはどこかなぁ〜?」
 部屋中を隈なく探すがナイフはどこにも見当たらない。
「どこいっちゃたのかなぁ〜」
「クククッ……探し…物はこ…れだろ……」
 声のした方を振り向くとそこには、ナイフを持った丸裸のゲイツ少年が血まみれになって絵画の横に立っていた。
「しつこい子は嫌われるよぉ〜」
「あ…れくらい…の攻撃…で死んだ…らつまら…ないだろ」
 行き絶え絶えなゲイツ少年は吐血しながら、立っているのもやっとという感じだった。その少年がせせら笑った。
「ファ…イナ…ルス…テージだ!!」
 ゲイツ少年は絵画の前に立ちナイフを両手でしっかり握ると思いっきり力を込めて絵画に突き刺した。正確にはナイフは絵画には突き刺さっていない、ナイフは絵画とほんの数ミリのところで止まっていた。ナイフは絵画を守るようにして張られている”何か”に突き立てられたのだ。
「ふ…ふははははははっ!!」
 高らかに笑うゲイツ少年はナイフを勢いよく下へ下ろし?何か?を完全に切り裂いた。
 切り裂かれた空間の亀裂から光が零れ、そして、光は堤防を流れ壊すように一気に放射され、両手を広げて高らかに笑うゲイツ少年の身体を丸々包み込み跡形もなく消滅させた。
 あまりの凄まじい閃光に腕で顔を覆う夏凛。そして、腕をゆっくりと下ろす彼は見た。光の中から神々しいまでの重圧感を放ちながら、一歩、また一歩とこの世界に姿を現した堕天使の姿を――。
 絵画の中から飛び出した幻想世界の住人の姿は、この世界に住む生物の何よりも美しい。身体を作る美しいライン、白く輝く大きな鳥のような翼、極めが細かく透き通るような白い肌、太陽そのもののような金髪の長い巻き毛、そして妖艶で中性的な面持ちの顔。まさにこの世のものとは思えないとは、この者の為にあるかのようだ。
 圧倒的な力の差が空気を伝って、苦しい程に伝わって来る。
 その姿に愕然とした夏凛は言葉を失い、魂が抜けてしまったように、ただそこに立ち尽くしてしまった。
 絵画から現れた堕天使は、全てを見透かすような瞳で夏凛を?視た?。
「私の同族の血が混ざっているようだな」
 そうはっきりと堕天使は夏凛に向かって言った。同族とはどのようなことなのであろうか?
 堕天使の口の端が釣り上がり、柔らかな唇を舌がペロリと濡らした。そして、顔の骨格的には決して有り得ることのないほどの大口を空けると、堕天使は自分の出てきた絵画を一思いに丸呑みにした。
 ことを終えた堕天使は春のような微笑を浮かべて夏凛を見た。
 一部始終を見ていた夏凛は唖然とし、寒気と悪寒が身体を駆け巡り、顔は見る見るうちに蒼ざめていった。
「奇麗で何よりも美しいけど、生理的に嫌な感じがするぅ〜」
 部屋が突如神々しい閃光に包まれ太陽の下のような明るさになった。光を発しているのは堕天使だった。
 建物全体が音を立てながら小刻みに連続して大きく揺れ、壁にヒビが入り、天上から砂埃と砕けたコンクリートの破片が落ちてくる。何か―― 恐らく堕天使の力によって建物が崩壊し始めているのだ。
「……ククク、クハハハハハ」
 突然笑い始めた堕天使は翼と両手を羽ばたくように大きく広げた。それと同時に堕天使の身体から七色の輝くオーラのような物体がいくつも流れるように飛び出し、それは哀しい表情をした顔のような形を持ち叫び声を上げ、部屋の中を駆け巡り、壁を突き破り、天井を突き破り飛翔する。
「魂の解放。人間の魂は死をもって浄化され真の自由を持つ光の領域へと上り詰め、大地に束縛されることなく神に取って代わる。私はその偉大な指導者となるのだ」
 堕天使の美しい横顔が上を見上げた。建物は激しく揺れ立っているのもままならなくなった。コンクリートの塊が天井から落ち床に当たり四方に砕け散け、建物が崩壊してしまうのも時間の問題と思われる。