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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トラブルシューター夏凛(♂)1 堕天使の肖像

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「申し訳御座いません、先ほどマスターの所在を確かめようと御屋敷中を隈なく探したのですが、どうやら御出かけになられたようで御座います。壱時間程前には確かに御見かけ致したのですが……?」
「じゃあいいや」
「申し訳御座いません」
 深々と頭を下げるアリスに恐縮してしまう夏凛。
「別にアリスちゃんが謝らなくてもいいよ。居ないなら別にいいの、今日は私のセット一式が欲しかっただけだから」
「セット一式を御求めで御座いましょうか?」
「うん、上下一式とブーツと大鎌と、それから香水も忘れないでね」
「承りました」
 そう言うとアリスは会釈をして闇の奥へと消えて行った。
 しばらくして、ティーカップに入った紅茶があんくなった頃、たくさんの荷持つを抱えたアリスが音もなく姿を現した。
「大変御待たせ致しました」
 そう言ながら、アリスは荷物をテーブルの上に順々に広げて置いていった。
 テーブルの上に広げられたゴスロリのドレスを手に取り説明をはじめるアリス。
「こちらが新作のドレスで御座います。このドレスはマスターが」
「あ、あの説明はいいから」
「そうで御座いますか?」
 夏凛はテーブルの上に置かれたブーツを手に取り、アリスの手からドレスを奪うと、
「着替えてくるから」
 と言って別の部屋に駆け出した。
「あの御着替え御手伝い致しましょうか?」
「来ないでいいから」
 アリスの申し出を力強く断った夏凛はそそくさと別の部屋に移動して着替えをした。
 アリスが待っていると、漆黒のドレスに身を包んだ夏凛が軽やかなステップと共に現れた。
「とても御似合いで御座います夏凛様」
 そう言いながらアリスは、夏凛に大鎌を手渡した。
 この大鎌は魔導士マナの作り出した特注品でマナ自身もこの鎌を愛用していて、夏凛と同じように普段は異空間に何本ものストックを置いてある。
 大鎌を構えた夏凛の姿はとても美しい死神を連想させた。この死神にであれば魂を狩られても良いと思う者が何人もいるであろう、そういった感じの妖艶さと美しさを身に纏う容貌だっだ。
「まあ、夏凛様、素敵で御座います」
 機械人形であるアリスが声を荒げて絶賛するのを聞いて照れ笑いを浮かべる夏凛。
「ありがとぉ、代金は私の口座から引いて置いてね」
「承りました」
「え〜と、あと。タクシー呼んで貰えるかなぁ」
「承りました」
「えっと、あともう一つ」
「何で御座いましょうか?」
 夏凛はさっきまで着ていたメイド服と靴をアリスに手渡した。
「あの、これ、ハルナちゃんに返しておいてくれるぅ?」
「承りました。責任を持って私が返しておきます」
「ありがとぉ〜」
「タクシーが来るまでしばらく御待ちになっていて下さいませ」
 そう言ってアリスは空のティーカップをトレイに乗せて、また暗い闇の中へと姿を消して行った――。

 タクシーが屋敷の前へと到着し車を止めると、鉄格子の重い扉が音を立てながら開けられ、中からアリス、その後ろから夏凛が出てきた。
「夏凛様、またの御訪問を――」
「じゃあね」
 会釈をするアリスに軽く手を振ると夏凛は開けられたタクシーのドアから中へと乗り込み行き先を告げた。
「マモンカンパニーまでよろしく」
 タクシー運転手は無言でタクシーを走らせた。
 空はすでに東の空の方から、徐々に光が世界を照らしつつある。タクシーはその光に向かって走って行く。
 アリスは小さく消えて行くタクシーに会釈をすると屋敷へと足を運ばせた。
 まだ光の照らされない、噴水広場を明かり無しで無駄な動き一つせず抜けると、アリスは玄関を開け屋敷の中へと入り、足早にある部屋に向かった。
 屋敷の中は暗く、足元、ましてや長い廊下の先などは全く見通すことができない。しかし、アリスはその中を淡々と歩いて行く。
 そして、ある扉の前で足を止めると、ドアをニ回ノックした。
「どうぞ、お入り」
 中からの返事を待ってアリスは扉を開けた。
 部屋の中にはテーブルに片肘を付き、長い足を組みながら椅子に座り、紅茶を飲んでいる長く銀色に輝く髪を持った男がいた。
 その男は煌びやかな装飾の施された法衣に身を包み、その顔は神々しいまでの美しさを放ち、全身を何か強大な力によって包まれているようだった。
 アリスはその人物に軽く会釈をした。
「夏凛様が御帰りになられました」
「どこに行くか聞いたかい?」
「マモンカンパニーに行くとおっしゃって御座いました」
「やはり絵画はそこにあるのか。そんなことより、クッキーが切れてしまったんだけど」
 無表情な顔に付いている二つの澄んだ蒼い目が男を無言で見つめる。
「…………」
「なんだい、何か言いたいのかい?」
「御菓子は、もうファウスト様が全て御召し上がりになられて、この屋敷にはクッキー一枚たりとも残っておりませんが」
「そんなに食べたかい、私は?」
「ええ、クッキーは一〇〇〇枚以上、ケーキは三〇〇個ほど、紅茶も四〇〇杯ほど御代わりになられました」
「そんなに食べたかねぇ〜、いろいろなものを身体の中に養っていてね、仕様がない。さて、御菓子がないのなら出かけるとするか」
「そうして頂けると助かります、愚痴や言い訳を聞かなくて済みますので」
 飲み干したティーカップをテーブルの上の置くとファウストは勢いよく立ち上がった。
「ところでアリス、マナの姿が先程から消えてしまったんだが?」
「マスターはどこかに御出かけになられたようで御座います。きっとファウスト様のことが……いえ、何でも御座いません」
「そうかい、ありがとう。マナには今度会った時に御説教を聞かせてあげよう」
そう言って、ファウストは悪戯な笑みを浮かべた。