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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第三章】第二話

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帰宅した大悟は、からだが自然に戻ったことを、衣好花の魔法が中途半端で効果が切れたと説明した。桃羅たちにはからだが元に戻った理由はどうでもよくて、純粋に身体復帰を喜んでいた。衣好花もショタイゴちゃんの消滅を残念がりながらもいい笑顔であった。
大悟は楡浬に事情を話した、黒霞雨との結婚のことは除いて。
楡浬は腐敗しきる一日前である。楡浬は元気がなかったが、大悟たちの頑張りに感謝して、笑顔を見せた。その笑顔に救われた大悟であった。
こうして、大悟、楡浬、白弦は黒霞雨のところに着いた。
「あなたが楡浬さんね。私は黒霞雨。以後お見知りおきを。」
「あんたの名前と顔はこの治療が終わった直後には忘れるからね。それにしても暗くて黒い部屋だわ。早く出たいから、さっさとアタシにかしづきなさい。」
「なかなかのタマだわ。気に入ったわ。すぐに楽にしてあげるわ。まずは服を脱いでくれる?」
「えっ。こんなところで?陳腐な公衆の面前じゃない。」
「陳腐な公衆って、大悟はそれ以下じゃが、妾も同種に分類するのか。」
「回答するまでもないことでアタシに質問しないで。呼吸して吐き出すCO2が地球温暖化にマイナスイオンだわ。」
「ずいぶん面白いコミュニケーションを取ってるのね。類友ってやつなのかな。」
「友達なんかじゃないわ。ただの下僕と侍女痴女幼女よ。」
「妾は幼女スキルマスターじゃ!」
「また新たな付加価値表現を付けたな。」
「ちょっと騒がしくなったわね。早く脱ぎないよ。当然下着もね。」
「えええっ!そ、そんなあ!」
「って、そこは大悟が反応するところじゃないわよ。ア、アタシのことなんだから。黒霞雨、この下僕をこの部屋から抹殺してよ。」
「それはダメよ。その人が持っている魔境放眼が重要なのよ。私の魔力を高めるのに必要なアイテムなんだから。楡浬さんを治すのにも活用させて頂くわ。」
「魔境放眼のことを知ってるのか?」
「私が大悟さんを面白いって言ったのはコントのことじゃないわよ。大悟さんから魔境放眼の力を感じたからなのよ。さあ、楡浬さん。スタンバイしてね。」
「し、仕方ないわね。大悟、す、少しでも目を開けたら、眼球取り出して、一生暗闇に閉ざしてやるからね。」
両目を閉じた大悟は無意識に聴覚が研ぎ澄まされてしまう。スルスルスルという衣擦れ音が否が応でも大悟の鼓膜を震えさせる。
「これは見事に可憐な小さな起伏だわ。真っ白で透き通るようなお肌に、桜色の蕾。羨ましいようなコントラストね。」
「元はフラットだったのに。やっぱり大きくなったんだな。色もそんなに美しいのか。ゴクリ。」
生唾を喉ごしよく飲み込んだ大悟。
「ちょ、ちょっと欲情するでない。恥ずかしいではないか。」
白弦が自分で幼女服を捲り上げて黒霞雨に見せていた。
「紛らわしいことをするな!楡浬のは前とは違って、完全な平らではなく、なだらかな円墳がふたつ横並びしているハズだ。」
「な、何言ってるのよ!見たこともないくせに。アタシのは、アンマンのようにふくよかなのよ。限りなくBに近いAVカットなんだからねっ。紫外線もひれ伏すわ。はっ。」
自らの失言に顔を赤らめる楡浬。そんなサイズ単位は存在しないことは言うまでもない。「それじゃあやるわね。大悟さんは、楡浬さんを背負いなさい。」
「ちょっと、これじゃ、まるでおんぶズマンのポーズじゃないの。」
「そんなワザの名前は知らないわ。でも魔境放眼の力を最大に発揮するにはこの体勢がいちばんなのよ。」
大悟たちは久しぶりにおんぶズマンの形となった。
「うっ。背中に直接体温が。」
「バ、バカ!余計なことを言わないの、感じないのっ!般若心経でも唱えなさい。」
「そんなの知るか!それなら、微分方程式でも解きなさいよ!」
「わ、わかった。って、問題もないのに考えられるか!」
「もう!一人しりとりでもしてなさいよっ!」
「わかった。えっと。大悟。ゴリラ。ラッパ。パンツ。つるぺた。」
「妾をダシにするでない!」
「単細胞。馬。まるはダルマ使い。以下娘。どんなヒドい娘だろう?ひとりごちてしまった。めし。死体遺棄。」
「マニアックなしりとりじゃの。」
「キス。」
「ちょうどいいわ。それよ。」
「ひゃっこ!」
黒霞雨は楡浬の背中に回り、そっと手を当てて、キスをした。声は楡浬のそれである。
「饅頭の甘い味がするわ。久しぶりにこれを味わったわ。」
 黒霞雨は楡浬の背中全体を丹念にキスして回った。
『シュルル』という蒸気が上がるような音が楡浬の全身から聞こえた。
「なにこれ。汚らわしいわ。もっとも淑女は手垢まみれの小汚い本では傷つかないけどね。」
 肌身離さず持っていたBL本をゴミのように投げ捨てた楡浬。
「楡浬、元に戻ったのか。やった!」
 歓喜のあまり、大悟が楡浬にしがみついた。
「ちょっと、離れなさいよ。アタシの格好を見なさいよ。じゃない。見ないでよ!」
 一糸纏わぬ姿の、元通り胸スレンダー女子が大悟の視界キャンバスを埋め尽くしていた。
「わあああああああああ!」
「きゃあああああああ!大ヘンタイ~!」
 楡浬の全身全霊パンチが大悟に炸裂し、大悟は黒い部屋のブラックホールに同化していた。
「ああ。やってしもうたの。哀れな奴じゃ。煩悩は幼女に向けるだけにしておかないとこうなる運命じゃて。」
「さあ、そちらの願いは叶えたんだから今度は私のターンだわね。ジョイントしてもらうわよ。居住区で華燭の宴ということね。」
「ああ。わかってる。覚悟は決めた。」
「覚悟って、これからあなたが行くのは理想郷なんだからそんな言い方はしないでよね。但し私の理想郷だけどね。魔境放眼というウイッグを付けることができるなんて、メイクのバリエーションが増えたわ。ひきこもっていた甲斐があったわ。ハハハハハ。」
「えっ?一体何を話してるの、あんたたち。ねえ。大悟!」
「喜んでくれ、楡浬。お前が待ち望んでいた許嫁不合格通知を受けてしまったんだ。詳しくはつるぺたに聞いてくれ。じゃあな。」
「ちょっと、待ちなさいよ。何のことか全然わからないんだけど。大悟!」
 楡浬の言葉の途切れと同時に大悟と黒霞雨の姿が暗闇にフェードアウトした。

 帰宅後、白弦は、大悟が黒霞雨と結婚することになったいきさつを全員に話した。
「諸悪、いや地球悪の根源は愛人二号だよ。愛人二号とお兄ちゃんがやっと許嫁不等式になったのはいいことだけど、肝心のお兄ちゃんがひきこもりの饅頭人に拉致されたなんて。いや拉致ってレベルじゃないよね。結婚って言ったら、永遠の片道切符だよね。」
「仕方ないでしょ。アタシは何も知らなかったんだから。」
「愛人二号はそれでいいわけ?」
「いいなんて全然思ってないわよ。そんなことがわかってたら、あんな怪談の舞台にしかならない場所にはお金もらっても行かなかったわよ。すべてアタシが悪いのよ。キッシンジャーでただの害悪にしかならない存在だけど、許嫁だからね。う、う、う。」
 楡浬の可憐な顔が、流れる涙で洗われる。強い口調だった桃羅も矛先を失い、言葉を失っていた。騙流と衣好花はふたりのやり取りを黙って聞いていたが、騙流はダルマで、衣好花は帽子で、目頭を押さえていた。