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デラックスマン

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デラックスマン-1



「デラックス・パーンチ!」
「げふっ」
「デラックス・キーック!」
「がはっ」
「デラックス・トルネード!」
「ぎゃあああああ」
「ぐへえええええ」
「どわあああああ」
 
 彼、ジョン・スミスはデラックスマンである、デラックス星人より与えられた超人的な戦闘力で地球侵略を目論む異星人と人知れず日夜戦っているのだ。
 今、正にダーク星人との戦闘の佳境、必殺技を次々と繰り出してダーク星の戦闘員を蹴散らし、隊長をも追い詰めた、後はとっておきの必殺技でとどめを刺すだけだ。

「プルルルルル……」
 その時、デラックスフォンが鳴った。
 デラックスマンに変身する為のアイテム・デラックスフォンは地球のスマホに似せて作られている、変身後も左腕に装着され、様々なデータを表示して戦闘をサポートするアイテムだが、怪しまれない為に通常のスマホの機能もちゃんと備えられているのだ。
 見ると妻のアニーからの電話だ、デラックスマンであることを秘密にしている以上「戦闘中だから」と言って無視するわけには行かない。
「もしもし」
「ジョン? 今日は早く帰れるんでしょう?」
「……それが……」
「何よ、記念日なのに、忘れたの?」
「いや、そんなことはないさ」
「じゃぁ、何の記念日か言ってごらんなさいよ」
「え~と……初めてデートした日だよね」
「違うわよ、初めてキスした日よ」
「そうだっけ?」
「初めてデートした記念日は一週間前にお祝いしたでしょう?」
「ああ……そ……そうだったね、アニー」
 どうやら「初めてデートした日」と「初めてデートの約束をした日」を混同していたようだ、この後いくつの『初めて記念日』があることやら……。
「わかったよ、なるべく早く帰るから」
「せっかくご馳走を用意しているのよ、遅れたら離婚ですからね」
「わかったよ……悪いけど今取り込み中なんだ、夕食までには必ず帰るから……」

「おい、デラックスマン、何か問題でも?」
 倒れていたダーク星人の隊長は身を起して怪訝顔……。

「いや、個人的なことだ……行くぞ、覚悟しろ、ダーク星人! デラックス・ビームでとどめだ!」

「プルルルルル……」
 ジョンがデラックス・ビームの構えに入ると、またしても電話……今度は上司からだ。
 ダーク星人も(いいから早く電話に出ろよ)とばかりに肩をすくめて目配せしている。

「もしもし」
「おい! ジョン! お前、商談に遅れているそうだな」
「あ……その……ちょっと外せない用事ができまして……」
「お得意中のお得意なんだぞ、それ以上に大事な用事ってのは一体何だ?」
「いや……その……ちょっと……地球の危機……」
「……話は社に戻ってから聞こうじゃないか、もっとも、君のデスクが残っているかどうか保障しないがね」
「いえ、あの、課長……本当に地球の……」
 皆まで言わせずに電話は切れた。

「大丈夫か?」
 ダーク星人が気の毒そうな顔で尋ねる。
「……いや……あんまり大丈夫じゃなさそうだ…………いや、しかし、それとこれとは話が別だ、覚悟しろ!」
「ちょっと待て……わかった、地球侵略は諦めるよ」
「信用できるものか」
「お前……相当に困っているんじゃないのか?」
「え?……まあ……実はそうなんだ……」
「お前は空を飛べるんだから今すぐ商談に行けば何とかなるかもしれないぜ」
「……確かにそうかもしれないが……」
「何の記念日だか知らないが、奥さんに『会社をクビになった』なんて打ち明けられないだろう?」
「ああ……確かに……そうだな」
「誓うよ、俺はこのままダーク星に帰る」
「本当だな?」
「ああ、信じてくれ」
「じゃあ……今日だけはこれで見逃してやるから、二度と地球に手を出すなよ」
「わかってるよ」
「じゃぁ……な……」

 デラックスマンことジョンが飛び去ると、ダーク星人はUFOで待機している本隊に連絡を取った。
「デラックスマンは手強いです、打ち破るのはなかなか……でも心配要りません、抛っておいても近いうちに腑抜けになりますよ、地球を侵略するのはそれからでも遅くありません……ええ、デラックスマンだけじゃなくて地球の男のほとんどがね……」

作品名:デラックスマン 作家名:ST