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雷鳴と雷鳥

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 しかし、そのありえないことが起きそうな空気が天空橋を川面に浮かせている。私は濡れてしとやかになった猫の頭をゆっくり撫でた。尻尾が一瞬起きたが、落ち着いた様子で撫でられている。
 雨の冷たさの向こう側に猫の体温がありその体温を隠すかのように震えがあった。寒いから震えているというわけではないと体温が教えている。
 すると突然、私の左後ろから鳩が一匹歩いてきた。その鳩の色は都会に居そうなものではなく、どこか烏に似ている。全身漆黒ではないが、雨に濡れ色濃くされた鳩は烏の色に変わっている。雨粒が鳩を避けるように降り、地面に突き刺さるようなエフェクトを想像すると目の前の映像にしっくりきた。そういう鳩だった。
 鳩は自分の歩行を恥じていない。鳥の飛ぶということをせず、さらに雨に羽を差し出している。鳩の目に誇らしさを感じそうだが、夜の光だけではそれを確認することはできない。蜂蜜色の目も否定できない。
 猫は鳩を見るとまた威嚇しだした。しかし、その目線は鳩ではなく、落下物にあり、その落下物はいつの間にか大きく、そして黄色に混じり、青の光が強くなっていた。その青は暗く、不透明な雨の中でも鮮明に輝き、むしろ雨の中でその輝きの真価を見せているような色合いだった。夕焼けの赤い雲に似ていた。
 そしてその青い光は鳩の進行方向である赤い橋の向こう岸にゆっくりと着地し、私と猫と対峙するように漂っている。その間を仲介人のように鳩が歩いている。
 鳩は飛ばない。
 
 鳩が橋の中間を過ぎた時、ゴロゴロオオとどこかからか地響きが聞こえ、それが雷鳴の前兆だと気づいたときにはまばゆい閃光が辺りを照らしていた。気持ち程度遅れて雷鳴が轟き、私の鼓膜を突き破り、猫の大きな耳は粉々に粉砕された。猫はのた打ち回っている。
 私はその様子を確かに見た。閃光は確かに私の視界を奪ったが、それは一瞬のことでそのあとは海水越しの海底を見るかのような青い視界に変わった。猫の黒い毛並みや、赤い橋もその青色に微妙に侵食され変色して私に伝わってきている。
 稲光が青く映ったのはあの落下物のせいのようで、向こう岸で鷲のような青い鳥が一羽、大きく羽ばたいている。青い鳥は自身の羽が青いわけではないようで、発光バクテリアが表面に居そうでもなく、青い電気を纏っているように見えた。それは私の視界が青く染まっているからそう見えただけで実際は黄色の電気を纏っているかもしれない。コンセントで電気がショートしているときに見える光塊がいくつも集合しているように見える。
 それでもその青の濃さや、惹き込まれそうなほど美しい宝石色から、私は青い鳥だと断言できる。
 
 青い鳥は特に何をするでもなく、ただ浮遊している。ただ、その何もしないということが青い鳥の神秘性を強調させている。川沿いに一つ大きく立つ大樹のようだった。そこには蜜蜂が敬意を持って飛ぶだろう。   

落雷によってか、私の左側、約十メートル離れたところにあった木が焼け焦げている。
 青い鳥を正面にとらえながら私はその焼け焦げた匂いが空中を漂っていた幻想的な匂いを掻き消していくのではないかと思った。掻き消された匂いを探すと微かにまだ残っている。消臭剤で消した血の匂いに気づく鮫のように私に鼻が敏感に反応する。そしてその匂いの構成の割合がどんどん変化していくのもわかる。全く同じ風景に私が勝手に匂いをつけていたことがよくわかる。
 私の妄想も一通り終わったのか、青い鳥はゆっくりと羽ばたき、向こうに飛んで行った。その先には空港がある。
 同時に青い鳥の尾から自身の体を分解させていくように箒星がこぼれだし、その箒星と酸素が作り出した熱が雨を蒸発させたのか乾いた空気が天空橋一帯に流れ込んできた。雨は天空に引き戻されていき、妄想の世界もそれにつられて天空に持っていかれる。天空橋は私の視界にきちんと残っている。
 水が蒸発するようにどこかに消えた雨雲の代わりに夜が暗くそこにある。排煙に思う汚らわしさを纏った赤い夕焼けも、網膜を作り替えるほどの青い鳥もいない。すべて妄想は幕を閉じた。いつまでも妄想と現実を混ぜ合わせるのは危険を伴うと理解しているが、この楽しさは永遠私を捕まえて離さない。
 ただ黒猫が細い体を私の横で見せている現実は何とも楽しいものだ。
 
 





 
作品名:雷鳴と雷鳥 作家名:晴(ハル)