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どれだけ時が。

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「し、失礼します。」

 入室を許可された私は、学長室に足を踏み入れました。

 手で指し示されたソファーに、少し緊張しながら進みます。

 腰を降ろした私に、学長は 微かに口元を緩めました。

「在校中の お母様に、そっくりですね」

「え?! 母の事、覚えてらっしゃるんですか?」

「はい。」

 学長の手が、ティーサーバーを持ち上げます。

「どれだけ時が経とうが…」

 テーブルに並べられた2つのカップに、順に注がれる紅茶。

「─ 我が校の可愛い生徒達の顔は、全て覚えていますよ」

 軽く感動する私に、一方が差し出されます。

「どうぞ 召し上がれ」

「あ、ありがとうございます…」

 カップに伸ばそうとしていた、私の手が止まりました。

(お母さんが この高校の生徒だったのって…30年前の事だよね?)

 学長の年齢は、確か20代後半の筈。

 私の頭は混乱しました。

(もしかしてフェイク情報で、学長は50歳を超えてる? でも、そうは見えないし…)

 不自然な格好で動きを止めた私を、学長が訝しみます。

「…どうか しましたか?」

「な、何でもありません。。。」

作品名:どれだけ時が。 作家名:紀之介