小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
のしろ雅子
のしろ雅子
novelistID. 65457
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

未生怨(みしょうおん 中巻

INDEX|10ページ/10ページ|

前のページ
 

第六章 祈之十五歳の頃 6



亜子は横浜でのパーティーの帰り、その流れで五台タクシーに分乗し、仲間を引き連れ鎌倉の家に帰ってきた。
 その華やかなドレス姿で女優の顔のまま仲間に取り巻かれ、その機嫌の良い顔をあどけなく、幼女のようにしどけなく甘え蕩けるような眼差しで居間のソファーに腰を下ろしていた。
 その眼差しこそ亜子を一線のスターで君臨させ、いまだ数多くの男達との風評を流し続ける才たるもので、その作り笑いも知る者には寒気のするほど不愉快なものであっても、まだまだ効力を発揮し、ハリウッドの肉体女優並に色香を振りまき、光沢のある翡翠色のドレスからは両乳房が飛び出すほど、胸元が抉られ周りの者を圧倒していた。
 正月以来鎌倉に戻るのは初めてで、祈之の事件も事の収拾を人に任せ、その顛末を電話で連絡を受けただけで、まるで他人事の様であった。が、事態は少し変り、祈之に言い聞かせなくてはいけない事が種々あった。
気侭な帰還の様であったが、真の目的はそれであった。
既に亜子の仕事絡みのプロデューサーに芸能界入りを熱心に口説かれ、自分の企画を受け入れる事を条件に、祈之の事を任せる事にしていた。
鎌倉の家で何度も祈之を見掛けているプロデューサーは祈之のある種、露悪的な妖しい魅力、秘めたるエロティシズムを携えたその少年に大きな関心を持っていた。
 大河ドラマに祈之のデビューすべく大きな企画が進行中で、もちろん亜子に大きな役回りは用意され、母子出演と言う話題性でドラマは始まりそうであった。
 婆やに呼びに行かせてからだいぶ時間が経ち、なかなか下りて来ない祈之を気にするように、酒の支度に忙しい婆やに
「祈之は?」
と再び声を掛けた。
「戸を叩いて声をお掛けしたんですが…」
婆やは二階を窺うように、再び足を運ぼうとすると、祈之が降りてきた。
 戸口に佇む祈之に、亜子は何時に無くしげしげと見つめ、計算高い遣り手婆が遊女の値踏みをするように、眺め回していたが
「いい子にしてた?…」
と声を掛けた。
 背徳の陰を湛え、その儚さと妖しさに倒錯的な香りを漂わせ、母親の期待を充分に備えたその息子は、臆病な愛玩動物のように微かに頷いた。
「これくらいの年齢の子って、淫靡で妖しくって堪らないわね。悪魔が人間の形を取るとしたら、こお言う少年に為るような気がするわ。さすが貴方の子ね、魅力的…」
誰かの言葉に笑い返しながら、充分すぎる資質を感じ取り、ちょっと妬ましげに見つめた。
それでも充分戦力になりそうな祈之の風情に、亜子は思わぬ宝が手中に転がり込んだような、自分の運の強さに北叟笑んだ。
 余り視線を合わせず俯いている祈之が、たまにチラッと亜子の肩越しに視線を投げるのを亜子は見逃さなかった。
「もう、お部屋に戻りなさい」
二階へ戻るように促されると、もう一度亜子の肩越しに視線を投げ俯いて祈之は出て行った。
 姿が消えてから、祈之の視線を辿るように振り向くと、そこには硝子戸一面にテーブルをセットする正夫の姿が映し出されていた。
 亜子は思案するように部屋の中央に目を移し、黙々とテーブルクロスを拡げ椅子を並べて回る正夫を見つめた。

ღ❤ღ 下巻へ続く