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Peeping Tom

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6.隔離少女



「お兄ちゃーん、課題やるからパソコン貸してー」
「んー」

 そのやり取りが耳に入った瞬間、私達の顔は青ざめました。お前らに耳や顔があるのかと言う指摘はさておいて、次の瞬間、そんな私達の動揺など一向に頓着せず、部屋の扉は開け放たれてしまったのです。

 ケンタの妹━━実はこの時初めて彼女の姿を目にしました。Tシャツにハーフパンツというラフな恰好で、小脇にテキストを抱え、我々が格納されているPC前のチェアに座る彼女は、普段我々の前で醜すぎる痴態をさらしている兄には勿体無いほど可憐な少女でした。
 どうやら中学生と思われるこの妹は、以前からしばしば兄のPCを借りて、プリント作成や調べ物などをしていたようです。今回もそんな兄妹の微笑ましい日常のワンシーンなのですが、我々が慌てたのには深い訳があったのです。
 私達は、ケンタが巧妙に作成した奥の奥のフォルダに格納されています。課題のプリントを作ったり、調べ物をしたりする程度なら、このような奥の奥のファイルを見られる事はまずありません。もちろん、その筋の専門家や、ケンタに彼女ができたとしてその「女性の勘」とやらで調査されればすぐ見つかる程度のものではありますが。
 でも今回は違いました。ケンタは、先ほど自らを慰める行為を終え、風呂に入り今は恐らく一息ついているところなのです。致命的な事に、私達が格納されているフォルダがデスクトップにこれでもかと表示されている状態で。ケンタはそれをすっかり忘れて、リビングで風呂あがりの牛乳でも飲みながら、妹にPCの使用を許可してしまったのです。

 私達は、自身が日陰者である事を重々承知しています。先日の母親の一件でもそうですが、特に女性には殊の外忌み嫌われている存在である事を当たり前のように自覚しています。最近でこそ、女性向けのAVが出てきたり、愛し合う前に男女でAVを見て気分を高めあったりという風潮も出てきているようですが、それでもまだまだ我々の肩身は狭い状況です。しかも、今目の前に居るのはいつも我々を視ている兄とはとても似つかわしくない、清純な女子中学生なのです。
 嗚呼、女子中学生! 我々と最も縁遠く、神々しいまでに清く美しい存在! 今様のJCと言う呼称の方が、よりときめく紳士の方もおられるでしょう。そんな輝かしい存在が、醜い日陰者の我々を認知してしまう。こんな恐ろしい惨劇が起こって良いのでしょうか。
 それだけではありません。その惨劇の後、何が起こるでしょう。私達の脳裏に最も考えたくない厄災が過ぎります。この年頃、いわゆる思春期の女子には、性に対して過剰に潔癖な娘もいると聞いています。そんな彼女の逆鱗に我々が触れてしまったら、激昂のあまり私達を全て削除すると言う暴挙に及ぶのではないでしょうか。
 私達はどうにか彼女の前から姿を消す方法はないかと足掻きました。右上の×ボタンが何らかのアクシデントでクリックされないものか、いっその事ブルースクリーンになって再起動がかからないものか……。
 その半ば祈りにも等しい我々の足掻きも空しく、彼女は我々の存在を認識してしまいました。あからさますぎるファイル名、関連付けられているアプリケーションから、動画ファイルであることも悟られてしまったことでしょう。
 次に私達がすがりついたのは、彼女の良心でした。そうなんです。兄も一人の男性なんです。こういう一面があるのはもうわかったでしょう。でも深入りしないほうがお互いの為です。さあ、右上の×ボタンを押して、何事もなかったかのように課題をはじめましょう。そうすれば、兄も、貴女も、我々も、誰しもが幸せになれるのです。ほんの少し、ほんの少しだけ、貴女が大人の対応をすればいいだけなのです!
 しかし、この蜘蛛の糸をたぐるようなか細い土壇場の願いすらも聞き入れられず、目の前の少女は、その若干震える手で手近なファイル━━間の悪いことにそれは私でした、をダブルクリックしてしまいました。
 私は困り果てた顔で仲間たちの方を見ました。仲間たちもすっかり同じ表情をしています。それでもしばらくして覚悟ができたのか「お前の全てを見せつけてこい!」という皆からのエールが私に送られました。私はそれを聞いて安心し、動画の再生処理を開始したのです。ただ、今になって冷静に考えてみると、かなり謎なエールだったようにも思えますが。

 気まずい空気を味わいながら、動画の再生を始めました。目の前で見ているであろう妹の顔は見られませんでした。そして、ある程度再生した所で一時停止の指示。
「……俺達、消されちゃうのかな」
背面のフォルダから、悲痛な仲間の呟きが聞こえます。そうなっても仕方がないと私もうな垂れたその時、カチャンと部屋の鍵が掛かる音が聴こえました。
 「なぜ鍵が?」と思い、私は顔を上げます。目の前には、切ない表情でおずおずとハーフパンツを下ろす妹の姿がありました。


 ここから先は、彼女の名誉の為に記すのは止めておこうと思います。兄の方の名誉はどうなんだと言われるかもしれませんが、ケンタについては私のような不良動画をダウンロードしてしまった報いという事で一つ観念してもらえればと考えています。妹に関しては、あくまでお試しで視聴してもらったと言うスタンスです。
 ただ、妹に関して一点、何があっても付記しておきたいことがあります。彼女は私を見終わった後、課題の方にもきちんと取り組み、ちゃんと終えてから自室に戻っていったということです。ろくに宿題すらしない兄は、爪の垢を煎じて飲むべきだと思います。

 さて、このお話もそろそろ終わろうと思いますが、どうやらこのままでは終わらせてくれない雰囲気であることを今ひしひしと感じています。そんな、どうしても可憐な乙女の秘密を知りたいと考えているどスケベなお兄ちゃん達のために、やむなく一言だけ呟いて、このお話を終わろうと思います。


 お兄ちゃんに似て、結構激しかったね。


作品名:Peeping Tom 作家名:六色塔