隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
第23章 婚約解消と離婚
木田家の今年の正月は、自宅でおとなしく過ごしている。そう、おとなしくである。
秋日子が受験直前のため、実家に顔を出すと、大勢いる従兄弟たちに風邪でも移されたら大変だ。塾での冬期講習は、クリスマス頃から三が日まで、休みなく行われた。苦手だった作文でも高得点を取るようになって、秋日子は自信が付いたようだった。
「面接の練習もあってね、あき、児童会の会長をやってたから、話題の引き出しがいっぱいあるって、褒められた」
「パパの中学受験の面接では、『世界平和について、どう思いますか?』って聞かれて焦ったよ」
「ええ? 小学生にそんな質問ある?」
「秋日子なら、どう答える?」
「うーん難しいな。『国連で話し合って、戦争がなくなったらいいと思います』あれ? これじゃ、簡単すぎるな。『戦争がなくなるように、戦争中の国同士、皆で仲直りするように説得します』やっぱり難しすぎるよ。“世界平和”って学校でも話したことないし、パパはその時なんて答えたの?」
「“人類皆兄弟”だと思います」
「ぎゃははははははは」
例年になくゆっくり出来て、博之は年末に準備した食材で、アルコール漬けの毎日だ。しかも高級食材がそろっている。「クエ鍋、ブリしゃぶ、すっぽん鍋の他に、伊勢海老やアワビの入った和洋折衷三段重のおせちなど、豪華料理三昧である。
「ふるさと納税制度ってすごいよな。これ全部、無料で貰えたようなもんだろ?」
「そうよ。まだまだ来るわよ。土佐ぶんたん、ヤマノイモと職人手作りのおろし金、佐賀牛、三輪そうめん、コシヒカリとか」
「普通に納税してたら、ひとつもいいことないのに、地方に納税するだけで、お礼の品の山になるのか。そんないい話が、世の中いっぱいあるんだろうな。気付けてないだけで」
小原は自宅のソファで、旦那とパジャマ姿でくつろぎながら、会話していた。
「なあ、お肉食べたいな」
「元旦に、お前の実家でフグ食べただろ」
「それは、お父さんが買ったやつ」
小原は脇腹をつねられた。無言で肉を揉む旦那を、小原は無表情で睨んで、
「何よ? このお肉があるって言いたいんか?」
旦那も無表情のまま身を翻し、スマホを触りだした。
「焼肉食べに行こう」
「やってないんじゃない? まだ」
「店もう開いてるでしょ」
「仕事始めは明日からだろ」
「開いてるお店探そうよ」
「それよりお金と相談だな。お前、初売りバーゲン行ったし、俺も友達に借金返したとこだし」
「あーあ。木田さんに会ったら、正月の贅沢三昧を自慢されるに違いないのに」
「よそはよそ」
「うちもうちで!」