隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
12月になり、事務的な業務も増えて来て、博之は残業で遅くなることも多くなって来た。新映像チームを早く帰らせるために、自分の業務は後回しにしてまで手伝うのかという批判もあり、悩みの種は尽きない。でも今日は企業監査の準備で、小原が残って手伝ってくれている。
「もう投げ出したくなって来た。くっそー」
「頼むよ小原、今逃げられたら俺もう死ぬ」
「まあ、そんなことしませんけど。今朝は3人に思いっきり言ってやりました。現場は殺伐としたと思います」
「言わないといけないことは、言わないといけないけど、言い方。それ大事」
小原の怒りにたじろぎ、何とか宥めようと、おろおろする博之。
「聞く方の態度も大事だと思います。言いわけばっかりしやがって、あいつら」
拳を握り締め、歯を食いしばる小原。
「奥歯砕けそうです」
「よし! 俺の手を殴れ!」
博之が、手の平を広げて、小原に向けると、
「おし!」
バチーン!
小原は力いっぱい、グーパンチした。
「痛ー。お前、地はそんなだったっけ?」
予想外のパンチ力に、手の平をブラブラ振りながら、しかめっ面で言うと、
「そうですよ。ドラえもん被ってただけですよ」
少し笑顔を見せる小原だった。
「結構いい女なんだから、もっと冷静に澄ましてた方が」
「分かってます。その方が男受けいいって。でも木田さんの前だからこうなれるんです」
「俺も男なんだけど、そう見られてない?」
「そうじゃなくって、逆に素の自分を見せられるってことです」
「ああ、それなら、まあ安心」
「木田さんて、色んなこと考えないといけないですよね」
「ああーん、考えてるというか、気を使ってるって感じだけど」
「大変ですね。部下が多いと」
「30人以上だから、なかなか全員の心配までは出来ないし、きっと中には、自分のこと気にかけてもらえてないとか、思ってる人もいるだろう」
「だから中間管理職が必要なんですよね」
「そうなんだよー」