隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
博之の帰宅途中、愛音から電話がかかって来た。小原と楽しい会話をした後に、愛音から電話があるのはもう珍しくなかった。小原との会話の余韻を楽しむのを邪魔されるのにも慣れた。
「もしもし、どーした?」
[今日ね。拓君が家の鍵、返しに来てくれたの]
「あ、そう。よかったじゃないか」
[車のお金も、毎月ちゃんと払ってくれるって]
「へえ? どうして心入れ替えたのかな?」
[私、赤ちゃんのこと、拓君に言っちゃった。それからパパとの本当の関係も]
「ちゃんと話し合えたみたいだな」
[いろいろあったのよ。そのうち、拓君とやり直せる予感がするわ]
「・・・・・・」
[どうしたの? 元気ないね]
「小原が最終日だったんだ」
[それで悲しんでるのか]
「ま、そういうこと」
[うまく行ってたんじゃないの?]
「そうだよ」
[でもあの人、パパの愛人じゃないでしょ]
「どうして違うと思う?」
[小原さん、私に遠慮してたもん、こっちが愛人だって疑われてたみたいだったし]
「そんなことないだろ?」
[それにパパたちも、お互いに遠慮し合ってるように見えたよ。仲いいのに]
「・・・そうか。そういう関係だったんだな」
[暫く寂しくなっちゃうでしょ]
「いいや、まだまだやらないといけないことが多すぎて」
[少しは平穏な日々が続くといいね]
「そうだな。愛音、また俺にピアノ教えてくれないか・・・」
完



