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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2

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第34章 これも愛



 博之の事務所では終業時間を迎えた。人が少なくなった事務所で、博之はパソコンで日報を打ち込んでいる岩瀬と話していると、そこにようやく小原が戻って来た。
「お待たせしました」
(先に帰るはずないじゃないか。待ってたって事は、分かってくれてるんだな)と博之は思った。
「人気者だから、挨拶に回っても、なかなか開放してもらえなかったんだろ」
誰も口には出さないが、男なら(美人の小原との最後の別れが惜しい)と思うのは当然のことだ。
「そうじゃないです。旦那から電話があって、もう! 最後くらいすっきり終わらせてほしいのに」
博之と岩瀬は、彼女の不穏な空気に動きを止めた。
「どうしたの? またケンカ?」
「旦那が会社で上司に文句を言いに行って、場合によっては辞めるって言うんです」
「旦那さん、会社でもめてるの?」
「旦那ももう暫くしたら退職するんで、人事異動とか嫌らしいんですよ。それで上司にやめてくれるように頼んでたんですけど。ま、私はどうでもいいですけど。なんで、今そんな話を電話でして来るかな。ホント残念なとこある人なんです」
(皆いろんな事情を抱えて、仕事してるんだな。いつもこんな話題で小原とは仲良くなれたんだし、まあいいけど)

 その後小原は、パソコンを開き、メールで最後の挨拶を送信しようとしたが、
「こういうのって、どう書いたらいいか分らないんですよね」
「ネットで定型文引っ張って来たらいいですよ」
岩瀬が言うと、小原は、笑いながら、
「そういうわけにはいかないでしょ」
「型にハマッてなくてもいいから、素直に『ありがとうございました。皆様のご活躍を心からお祈り申し上げます』って打っとけばいいんじゃない」
と博之が言うと、
「その方が型にハマッてませんか?」
と岩瀬が言った。
「ですね。(笑)木田さん、教えてくださいよ」
「仕方ないな。最後の指導だよ」
博之は小原の隣に座った。