サイバードリーミーホリデイズ
「今回のパソコンの大がかりな乗っ取りはDDOS攻撃といって、まず他人の複数のパソコンに不正なソフトを仕込んで操れるようにするわけね。そして一斉に目標とするネットワークやサーバーに集中アクセスするように仕向けるの。するとアクセス過多になったシステムは許容量を超える処理要求に応えられなくなってシステムダウンして使用不能になってしまうのね。それをDDOS攻撃というわけ。それと何とかボムっていうのは正確にはロジックボムって言うんだけど、日本語だとそのまんま『論理爆弾』と言ってたりするけど、言ってみれば時限爆弾みたいなものね。要するに、予めサーバーにウイルスを侵入させとくわけ。それで指定された時間が来るとそのウイルスが作動して、サーバーの中のデータを書き換えたり、消去したりするようなことを言うのね」
「だけど、相手は自衛隊やら米軍なんだろ?言ってみれば国家の最高機密を扱ってる所にそんな簡単に侵入できるもんなのかい?」
「確かに簡単なわけないし、超高度なセキュリティを何重にも張ってるとは思うけど、理論上は結局は可能なんだと思う」
と恵理子の疑問に答え、怜奈はさらに続けた。
「あとね、ハッカーのことだけど、それに今回のは実際に何が起きたかよく分からないわけだけど、そもそもパソコンに悪さをするのはハッカーではなくてクラッカーって言うのね」
「ハッカーというのはコンピューターをより良くする為にプログラムを書き換えたり、修正したりする人のことを本来言うわけなんだけど、そんなハッカーに対して悪意を持って他人のパソコンに侵入するのがクラッカーなの。人のパソコンを乗っ取ったり、勝手にデータ改竄したり、ウイルスを仕込んだり。言ってみればパソコンの前に座るとお尻から尖がった悪魔の尻尾が生えてくるのがクラッカーで」
「背中に天使の羽根が生えているのがハッカーってこと?」
そうジェシカが混ぜっ返すと、
「そんな恰好良くないけど、悪魔の尻尾をちょんぎるのがハッカーかもね」
と怜奈は少し自慢げに答えた。
「だけど、九時に何が起こるんだろうね?奇蹟が起こるって言ってたわけでしょ?でも奇蹟って普通偶然起こることであって、意図的に起こすなんて不可能だと思うんだけどなあ……」
怜奈の質問に草介は考え込みながら、
「奇蹟を意図的に起こすって、我々があずかり知らぬところで巨大な力が仕込みでもしない限りまあ無理だよね。結果的に奇蹟に見えたものを我々が奇蹟だと勝手に思い込むような。<わたしたち>はこう言ったわけだ。はじめにワールドコイン、次に軍隊の武装解除。普通に考えると世界政府的な何かが現れるとか。国連のなかに有志グループによる秘密組織があってとか……しかしまあ、三文小説みたいでぱっとしないね」
「<わたしたち>が実際に姿を現して、何か宣言でもするとか。だって大型兵器を無力化しちゃったということでしょ?本当に考えられないことしたわけだからね。それって。だけど何が起こるか……う〜ん」
とジェシカも降参という感じで首を捻る。
「ソ連がぶっ壊れて消滅したり、ベルリンの壁がなくなったり、そういうのを私は見てきたからねえ、何があっても驚かないと思ってたけど、衝撃度はそれ以上だもんね。長生きはしてみるもんだよ。ちなみに私はお手上げ」
と、恵理子は言い肩を竦(すく)めた。
食事が終わり、それぞれコーヒーカップを手にして、リビングに移動する。怜奈はソファーが三人かけなので、キッチンテーブルの椅子をリビングに運んで座りスマホを立ち上げると、素っ頓狂な声をあげた。時計は午後八時を回ったところだ。
「新しい情報出たよ、ちょっとテレビつけてみて。多分テレビでもやってると思う」
恵理子はCDを消し、言われるままにテレビのスイッチを入れた。
テレビでは武装解除が事実であると、いくつかの国が遂に認めたと報じていた。はじめに北欧四か国。次いで南欧諸国数か国、南米数か国に、ベトナムを除くアセアン諸国、アフリカでも数か国が大型兵器が使用不可能になったことを認めたと、それぞれの政府が公式に発表したということだった。傾向としては政情が安定している国、もしくは軍事力が弱い国からメッセージは真実であると言いはじめたということだった。
「これはいよいよ米軍もロシア軍も自衛隊も機能不全に陥っているってことだね。しかし凄いことになってきたな」
迫りくる午後九時を前にして草介は興奮ぎみに言い、時計に目をやった。
地球上で最も遅く日が変わる、アリューシャン列島にあるアッツ島が新年を迎えたその時、とある一つの動画が世界中のテレビ局に配信された。日本では午後九時になるところだった。同時にネット上にある全ての動画サイトに同一の動画がアップロードされた。
世界中の人々が、不確かな期待と疑問と奇妙な高ぶりを持ちながら、固唾を飲んで見守っていた。世界史に刻まれるような大騒動から、きっかり二十四時間後の世界が訪れたというわけだ。
テレビ局では「たった今、<わたしたち>から送られてきたものです。たった今です。中身の検証さえしていません。なので何が起こるかも全く想定しておりません。ありのまま、ありのままをこれからお送りいたします」と、他局に後れをとるまいと、放映を開始した。もちろん、ネット上の動画サイトで閲覧する人々は、動画を一斉にクリックした。
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作品名:サイバードリーミーホリデイズ 作家名:ふじもとじゅんいち