おりん(改稿版)
「八年前の事ぁ、もうすっかりカタがついてるんだ、いまさら蒸し返したって誰の為にもならねぇよ……おりんもお前と父親が命がけで守ってくれた操ってやつをあんなどら息子にくれてやるのは真っ平だったんだろうよ……そのために命まで落とすことにはなっちまったがな……お前さん、老い先短ぇって言ってたが、ワシも同じようなもんだ、ワシはこの話を墓場まで持って行くさ、倅にも話しゃしねぇよ」
「お武家様……」
「だがよ、只って訳にゃ行かねぇよ」
「はぁ……」
「口止め料としてもう一本つけてくれねぇか……すっかり体もあったまったから、今度のは上燗で頼むぜ……」
「へい……それと、有り合わせのものしかございませんが、何か鍋でもこさえましょう」
「そいつはありがてぇな」
「平吉親分さんとも良くそうして即席の鍋をつついたんでございますよ……それと、明日は卵を贖って玉子焼きをつくりやす」
「玉子焼き?」
「ええ、おりんちゃんの好物だったんでございますよ、そっちの隅の方で嬉しそうに食べていたのを思い出しやしてね……あっしはもう足が弱っちまって武州まで墓参りには行かれませんが、せめてお供えしてやろうと思いやしてね……」
(終)