女流バイオリニスト、日本へ行く
翌日の昼過ぎ、特別に休暇を取った志のぶはサラに話しかけた。
「日本ではね、お祭りのときに伝統的な服装をするの」
「伝統的な服装?それは素敵。私も着てみたいわ」
「じゃあ、私が着付けしてあげるわね」
「ヘアメイクは私に任せて」
晴子も乗り気だった。
― 数時間後 ―
着付けが完了した3人の美女が、着替え部屋から出てきた。落ち着いた和風美女の納谷志のぶは濃紺の帯を締めた、白地に青紫色のアヤメ柄の浴衣姿で、妖しくも可憐な陰陽師の安倍晴子は赤い帯と濃紺地に薄紫色の桔梗柄の浴衣姿、そしてサラは藍色の帯に白藍と天色青(いわゆるスカイブルー)の地に流れるようにプリントされた桜柄の浴衣姿である。彼女は初めて浴衣を着たのがうれしくて、チャーミングな笑顔を見せた。リビングに居た男性陣はおのずと女性陣に目を奪われた。愛妻の夏限定の衣装を目にした剛の目はハートマークになり、隼人に至っては、
「You are so BEAUTIFUL」
と英語で言ったほどである。なお、彼の言った「You」とは複数形の「You」で、3人の美しさを褒めているのだ。いつもは冷静な丈二も、
「西洋人の浴衣姿か。『やまとなでしこ』とはまた違った美しさだ」
と言って口角を上げた。
彼女たちが出掛けるときには、おやっさんが
「12時までには帰るんだぞ。Get home by twelve o'clock」
と言うと、いたずらっぽく笑った。これには「なでしこ」たちも照れ笑いした。
隣町の夏祭りで、志のぶと晴子はさまざまな出店をサラに説明しながら通りを歩いた。その途中、綿あめの出店でサラはハローキティの袋に入った綿あめを見て、それを買った。ちなみに志のぶと晴子は、二人とも仮面ライダーがプリントされた袋の綿あめを買ったので、出店のお兄ちゃんに不思議そうな顔をされたのだとか。
次に、3人は水ヨーヨーの出店で足を止めた。どういう成り行きか、サラが水ヨーヨー釣りにチャレンジすることになった。開始から20秒ほどで、彼女は薄ピンク色の水ヨーヨーをゲットした。その一部始終を見た志のぶと晴子はもちろん、お店の人も拍手した。
それから、彼女たちは涼を取るためにかき氷を買った。志のぶはメロン味、晴子はグレープ味、サラはイチゴみるく味のかき氷を手にして、建物の壁際で食べた。また、最後にサラが白い赤ちゃん犬のサンリオキャラクターのバルーンアートを買ったとか買わなかったとか。
美しきアマチュアバイオリニスト、サラ・スタインベック・シュルツの、日本での夏の1日の出来事でした。
作品名:女流バイオリニスト、日本へ行く 作家名:藍城 舞美