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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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女流バイオリニスト、日本へ行く

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8月のある日のこと。ライダーチームの本拠地、スナック・アミーゴから、珍しくバイオリンの音色が聞こえていた。曲はバッハの名曲「G線上のアリア」。バイオリン1台の完全なソロながら、その音色は聞く者に母性をも感じさせるほど穏やかで繊細なものだった。演奏者はブロンドがかった髪に青い目、そしてピンク系のドレスといった出で立ちのアマチュアバイオリニスト、カナダ出身のサラ・スタインベック・シュルツである。スナックの常連客に交じって、納谷志のぶも仕事の手を休めて愛する夫・剛の胸に寄り掛かっていた。普段はクラシック音楽に興味を示さない剛でさえ愛妻に腕を回して、上品なバイオリンの調べに聞き惚れていた。
 自室で作業をしていた結城丈二でさえ、優美なメロディーに誘われて作業中断し、その場所に来たほどだった。
(何と癒される音色だろう。これほど素晴らしいバイオリンを聞くのは、もしかすると初めてかもしれない)
 彼は心の中でそうつぶやいた。

 サラが1曲弾き終えると、店内に居た人々が大きな拍手をした。次に、サラはイギリスの偉大な4人組ロックバンドの最も有名なバラードナンバーを演奏しはじめた。懐かしいメロディーが聞こえてきたので、60年代〜70年代ロックを好む一文字隼人も聞きに来た。普段は硬派な彼も、カナダから来た女性が情感たっぷりに奏でるバイオリンにすっかり聞き入っていた。

 美しい音楽とおいしいコーヒーがつくり出す癒し空間に、そこに居た全員が癒されていた。安倍晴子に至っては、リラックスしたあまり眠りそうになったほどである。そのあとも、サラはパッヘルベルの「カノン」のrockバージョンや日本の唱歌「夏の想い出」「少年時代」といった幾つかの曲を披露し、即席の演奏会は好評のうちに終了した。惜しみない拍手の中、美しき演奏者は簡易ステージ上で感謝の眼差しを送った。


 その日の夜、ライダーチームはサラを交えて夕食を取った。メニューは白米、志のぶのおばあちゃん直伝の煮物、冷奴などが並んだ和食尽くしだった。サラは英語の堪能な隼人にお箸の持ち方を教わり、すぐに上手に持つことができた。志のぶや晴子もつたない英語ながら積極的にコミュニケーションを取り、サラのバイオリンのキャリアや昼間に開いたミニ演奏会のこと、そして身につけているきれいなブローチなどの話題で盛り上がっていた。また、トークをしているうちにいつの間にかレディーストーク状態になったのだとか。

 デザートに志のぶ手作りの冷え冷え水ようかんを食べていたとき、志のぶがあることを提案した。
「ねえサラ、明日は隣の地区でお祭りがあるのだけど、私と晴子ちゃんと一緒に行かない?」
 お祭りと聞いて、サラは目を輝かせながら答えた。
「お祭り?ええ、ぜひとも行きたいわ。私、日本のお祭りに行くのは初めてなの」
 こうして、2人の日本人と1人のカナダ人は、ささやかな「女子旅」に行くことになった。