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『バックダンサー』

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          『バックダンサー』

フィル 「今度の日本公演のステージでさ、バックダンサーをつけるってどうだい?」
ヒューゴ「いいね」
ジミー 「だけどさ、ありきたりじゃつまらないよな、今まで誰も見たことがないようなダンサーっていないかな」
フィル 「俺にちょっと心当りがあるんだが」
スティーブン「本当ですか? 当ってみて下さいよ」

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「晴子ちゃん、国際郵便よ」
「国際郵便? 誰から?」
「LOVE BRAVEのフィルさんから」
「ホント? 憶えててくれたんだ」
「盆踊りの櫓の上で演奏してくれたバンドね?」
「そう、親日家なんだ、あの時『ファンです』って言ったらすごく喜んでくれて……わ、なるほど!」
「なんて書いてあるの?」
「8月の来日公演にスペシャル・バックダンサーを用意して欲しいんですって」
「へぇ、晴子ちゃん、心当りがあるの?」
「まあね」
 晴子は少しイタズラっぽく笑った。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「LOVE BRAVEのバックダンサー? やるに決まってるじゃない!」
「LOVE BRAVEを知ってるの?」
「いつの時代の話よ、あたしたち妖怪は確かにずいぶん昔からいるけど、現代を生きているのよ、知らないはずがないじゃない」

 JKのようにぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいるのは……雪女・お雪だ。

「人数は多い方がいいんだけど……」
「8月のコンサートよね、しかも野外の、あたしは天然のクーラーですからね、ピッタリよ、あとはあたしに任せてくれる?」
「うん、お願い」

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

 巨大野外会場で行われたロック・フェスティバル。
 真夏の日もどっぷりと落ち、いよいよ大トリ・Love Braveの登場だ。
 セッティング中だったステージをぼんやりと照らしていたライトが全て落ちると、ステージ脇にしつらえられた井戸が青白いライトに浮かび上がり、そこからすうっと現れたのは……お菊だ。
「ナイン~・エイト~・セブン~・シックス~・ファイブ~・フォ~・スリ~・ツ~・ワン~……FI~RE~」
 お菊が震える声でカウントダウンすると、ステージ後方から飛び出したのは大量の狐火と人魂、会場となっている広場を埋め尽くしたオーディエンスの頭上を飛び交い、橙色と青白い炎で夜空を彩る。
 すると、ツインギターの咆哮が夜空を切り裂き、ステージ中央に二筋のスポットライト、Love Braveの演奏が始まったのだ。
 ヒューゴの鋭く空気を切り裂くギターに青白い炎の人魂が呼応し、スティーブンの伸びやかなギターにはオレンジ色の炎の狐火が呼応する。
 二本のギターがぶつかり合い、絡み合うと、人魂と狐火もぶつかり合い、絡み合う。
 それはコンピューター制御のレーザー光線とは比べようもない化学反応を引き起こす、何しろ人魂も狐火も生きて(?)いるのだ。
 ギターバトルが、そして人魂と狐火のバトルがひとしきり続くと、ジミーのベースが飛び込んで来て二本のギターに絡むように堅固なリズムを刻む。
 するとステージ後方から無数の唐傘お化けがピョンピョンと飛び跳ねるように現れた。
 唐傘お化けのラインダンス! 一本足でどうやってラインダンスを踊るのかって? 一列になって腕を組み、交互に支え合いながら左右に足を振り上げるのさ、両端には子泣き爺と塗り壁が重石となってラインを支えている。
 そしてバンドサウンドにフィルのヴォーカルが重なると、客席のあちらこちらから子供の歓声が沸きあがる。
 いつの間に? 誰が? 無数の座敷童子が紛れ込んでいたのだ、突然の出現に最初こそ驚かされたオーディエンスだが、現代っ子らしくノリノリの座敷童子に呼応するように立ち上がり、歓声を上げる。
 コーラス隊は言わずと知れたろくろ首、一本だけ立てられたマイクに競い合うように首を伸ばしフィルの歌声にハーモニーを付けて行く。
 そしてブラスセクションは二口女、前の口でサックスを奏でながら、同時に後ろの口でトランペットを吹き鳴らす。
 ゲストミュージシャンのドラマーは阿修羅! 六本の腕から叩き出されるリズムはさながら音の絨毯だ。
 
 そして、ステージも佳境に差し掛かった頃、突然の雷鳴と共に激しい風が吹き荒れる。
 上空で風神と雷神のバトルが始まったのだ、だが、見ものとしては迫力満点なものの、少しヒートアップしすぎてこのままだと演奏の邪魔になりかねない、バックステージに待機中のお雪の指示で一反木綿が大挙して飛び出し、風神・雷神を絡め取って引っ込めさせた。
 とは言え、一反木綿も裏方で終わるのはつまらない、役目を終えると再び飛び出して宙を舞う、最後に飛び出したのは赤地にメープルを染め抜いた一反と腹に赤い丸を描いた一反、日加友好の印だ。
 
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

 ステージは狂乱の中進み、最後の曲が終わると、オーディエンスからはアンコールを求める割れんばかりの手拍子が……と、ステージにお雪が現れて客席上空に息を放つ、突然の冷気にヒートアップしていたオーディエンスも静まった。
「僕等の大事な仲間を紹介するよ」
 ヒューゴの言葉に応じてステージに表れた一人の女性……サラだ。
 しかし、オーディエンスにとってサラは見知らぬ女性に過ぎない、戸惑いを隠せずにいると、サラの体が青白く光り始める。
 晴子が、サラが肌身離さずつけている結婚指輪を媒介にしてティムの霊を呼んだのだ。
 オーディエンスには青白い光にしか見えないが、メンバーには光の中にティムの姿が見える、そして、スティーブンが母親に……いや、父親にギターを手渡すと、ティムはサラの体を借りて静かにギターを奏で始める。
 オーディエンスの中にも囁きが広がり始めた。
 スティーブンが、Love Braveの創設メンバーだったティム・シュルツの息子である事は良く知られている、そしてイエーツ・マーロウ&オドネルと名乗っていた彼らがスティーブンをメンバーに迎えて再びLove Braveを名乗った時のことも……。
 人魂に狐火、唐傘お化けに二口女、阿修羅や風神雷神まで見せられたオーディエンスにとって、青白い光がそのティム・シュルツの霊である事は自然に受け入れられた。
 サラの体を借りたティムのギターに、息子であるスティーブンのギターが絡み、さらにヒューゴのギターも絡む、そしてジミーが、フィルが加わって、彼らがインディーズ時代から大切にしている曲が流れ始めると、客席は不思議な感動に包まれて行った……。

ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!

「ありがとう、ハルコ、きっとまた日本に来るよ」
 ステージを終えたフィルが晴子にハグを求めて来た。
「ありがとう、ハルコ、短い時間だったけど夫に会えて幸せだったわ」
 サラのハグは見た目からは想像出来ないほどの力がこもっていた。
作品名:『バックダンサー』 作家名:ST