風鳴り坂の怪 探偵奇談15
山は生きている。土も、草も、そこに光る水滴にまでに命を持ち、魂を宿す。風が山々を駆け巡るのは、命たちが囁く合図だった。
天谷颯馬(あまたにそうま)は、この沓薙(くつなぎ)山の守護者である神々を祀る家系に生まれた。神様の声を聞き、存在を感じ取る力とともに。
山にいると、色んな声が聞こえる。
―今夜も雪になるな
―あの子どもはもう、助からない
―彼女の願いはもうすぐ叶うだろう
幼かったころから、颯馬はご神木の下でそんな声を幾度も聞いた。予言なのだろう。そしてその予言は必ず現実になった。この声が聞こえることは、誰にも秘密だった。そうするのがいいのだと、颯馬は幼い頃から知っていた。口に出してはいけないことが、この世にはあるのだと、胸に秘めた。ときおり、一人で胸にしまうにはつらすぎる言葉も聞いたりしたが、それでも決して他言はしなかった。
今朝もいつもと変わらぬ、うっすらと雪の積もる穏やかな朝だった。それなのに、本殿に立ち寄った颯馬は、山がざわめいているのを感じ取る。ここ一か月ほど、どこかそわそわとした焦りというか、どうにも落ち着かない気配を感じるのだ。それが気になり、毎朝足を運んでいるのだが…。
(あ、いるな…)
天狗池を眺めていると、背後に大きな気配を感じた。
町 の 西 に 不 浄 の 風 が 吹 き 荒 れ て お る
この声は、颯馬に未来を告げるモノたちとは一線を画すものの声だ。
作品名:風鳴り坂の怪 探偵奇談15 作家名:ひなた眞白