夢魔
――あれから数年。
私は或るホラー文学賞で大賞を獲り、計らずもプロの小説家として忙しい日々を送っている。
かつての郷田先生の作品より切羽詰った緊迫感が出ている分、ホラー小説として優れているなどという書評もたまに目する程である。
それもその筈、私は郷田先生とは違い、黒い夢魔を御しきれていない。一寸でも油断すれば、膨らんだ悪夢で脳がぐずぐずに壊されてしまう。そう、郷田先生の言った、夢魔は悪夢を見せるだけというのは嘘だったのだ。
夢魔の奴は今宵も私をけしかけるのだろう。早く次のを書き上げろ。夢魔の種をばら撒くのだ、と。
郷田先生はと言うと、あの後二本のホラー小説でヒットを飛ばした後、突然に恋愛小説に転向してしまった。
そう言えば、あの夜の話でも、元々はそういう系統の作品を書いていたと言っていた。
だが、その元々とは違い、先生はその分野でも異例の大ヒットを飛ばし続けている。
私もその殆どを読んだが、それらは過去の名声故のヒットではなく、真に傑作なのだと思い知った。
読むものを夢の中に引き入れるようなストーリーや描写。
私は密かに、あれは大きく育った”白い夢魔”を頭の中に飼っているからだと睨んでいる……。
おわり
2004年に書いたモノです。
古くてすみません。
また書きたくなってきそうな気配もあるのですが。
もう少し……。