【完】全能神ゼウスの神
全能神ゼウスの神
そしてリカに抱かれたまま、プロビデンスの間に連れて行かれる。
「おお!」
「めい!!」
「さっすがゼウス様♡」
口々に復活を喜ばれ、めいは恥ずかしいやら嬉しいやらで思わずリカの首筋に顔を埋めた。
「…光らないな。」
ポツリと陽が呟く。
「え…じゃあフェアリーの力が…」
「そうじゃねぇ。」
イヴの言葉を遮って、リカがそっとめいの前髪をかき上げた。
「…聖印!」
いつになく焦った様子で声を上げたイザークを、リカが斜めに見る。
「やっぱ知ってたか。」
リカは、めいを抱いたままその場に腰を降ろす。
「これ、なに?」
上目遣いで見上げてくるリカの前に腰を降ろしながら、イザークは魔法書をめくった。
「これは、過去に一度しか存在したことがない、全能神の印です。」
「…ゼウスがもう一人ってこと?」
円陣を組むようにイヴと陽が腰を降ろす中、リカはイザークに訊ねる。
「いいえ。この『全能神』は本当の『全能神』です。」
「?」
「恐れながら、ゼウス様は、ミカエル様やサタン様のような力はお持ちではないでしょう?」
「…ん。」
「フェアリーのような力も。」
「ん。」
素直に頷くリカにイザークは慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、丁寧に説いた。
「この聖印が額に現れた全能神は、それら全ての力をお一人で持っていらっしゃるんです。」
「ええ!?」
リカや陽、イヴが声をあげる前に、めいが驚きの声をあげる。
呆気にとられた表情で皆に見つめられ、めいは先走ったことに気づいた。
「…ご…ごめんなさ」
「ぷっ」
謝りかけためいの言葉に、リカが小さく吹き出した声が重なる。
リカは慌てて口を抑えた。
「…。」
けれど、何も起こらない。
「…あれ?」
「一瞬だったから、大事には至らなかった?」
イヴと陽が顔を見合わせると、イザークが魔道書をパタンと音を立てて閉じながら、微笑んだ。
「いえ。これが、全能神の力です。」
「…へっ。」
めいが上げた素っ頓狂な声に、再びリカが吹き出しそうになる。
それを必死に口元を押さえて抑え込もうとしていると、イザークがリカのその手をそっと外した。
「もう、何も我慢しなくていいんですよ『リカ』様。」
驚くリカの手をイザークは離すと、めいに深々と頭を下げる。
「こちらの神様が、これからは全て調和を保たれます。」
「…え…じゃあ俺達はもう必要ないってこと…?」
イヴが声を上ずらせながら訊ねると、イザークが首を左右にふった。
「いいえ。皆様の力は必要です。なぜなら、この神様は、ご自身ではフェアリーの力しかお持ちでないのですから。」
イザークの言葉に、陽は額に手を当てながら目を瞑る。
「…ごめん…ちょっと意味わかんない…。」
「つまり」
リカの声に、皆が一斉に注目した。
「ミカエルとサタンの力を調和させるゼウスの力を、めいが補助してくれるってこと?」
「その通りです。」
ひとりだけ理解した様子のリカに、イヴと陽とめいが尊敬の眼差しを送る。
「そうか…だから、今までは正と負のバランスが崩れないようにゼウスは心をどちらにも傾かせないようにしないといけなかったけど、今度からはそれすら全能神が調整してくれて、かつオーラの補助もしてくれるからゼウスは自由にできるんだ…。」
「そうです。全てを超越した神でいらっしゃるので、もう光ることでフェアリーの力が発動してるという警告を与える必要はないんです。」
「…。」
リカとめいは視線を交わした。
「なんでこんなことに…」
「そりゃー、ゼウス様がめいにゼウスの力を挿れたからっしょ。」
突然、イヴが容赦なく爆弾を投下する。
陽とイザークが同時にめいとリカを見た。
「ゼウスの力を中出ししたから」
「あ!あーっ、なんかこの部屋暑くない!?」
めいが慌ててイヴの言葉を遮りごまかそうとする。
「事実じゃん。」
けれど、笑いを含んだ声色で、リカがとどめを刺してきた。
「リカ!」
真っ赤になりながらめいが拳をふり上げると、それを笑いながらリカが手のひらで受け止める。
「てことはさ、イザーク。」
リカは、熱くなっためいの体を抱きしめて優しく撫でながら、イザークを見た。
「ゼウスは今まで挿れるとスティグマが表れてヤバいって言われてたけど、これからは抱きまくっていいってこと?」
ストレートなリカの質問に、めいの体がビクッと跳ね、体温が更に上昇する。
「…ご自由に抱きまくられて良いんじゃないでしょうか。」
いたずらな笑顔で返すイザークに、イヴが目を丸くした。
「冗談言うんだ、賢者さん!」
「ん。私も初めて聞いた。」
「何気にこういう人がムッツリなんだよな。」
一斉に神々にからかわれたイザークは、色素の薄い水色の瞳をわざと冷ややかにする。
「そういうことおっしゃるなら、もう二度と神の国に知恵は貸しませんよ。」
「うっわー、陰湿!」
「ま、見るからに陰湿そーだよな。」
「ゼウス様もなかなか口悪いですねー。」
そう言いながら、一斉に笑いが起こった。
まさか、プロビデンスの間で、ゼウスを交えてこんなに和やかな楽しい会話をできるようになるとは…。
めいは驚きながらも、リカの幸せそうな笑顔に自然と相好を崩した。
傍にいないとゼウスの役に立たないと悔しがったことが嘘のように、めいは自身の存在を誇らしく思う。
「ヘラも、めいのおかげで助かったんだな。」
リカがめいの頭を撫でながら、間近で微笑んだ。
「え?」
首を傾げるめいの顔を、イヴも覗き込む。
「うん。そーだろーね!きっと、消えるとこをめいの魂が入ったことで器が強化されて、魂齢が延びたんだ。」
「すごいな、めい。」
陽が素直な笑顔を向けてきた。
「…そうなの?」
めいはリカとイザークを交互に見つめる。
すると、二人は大きく頷いた。
「…良かった!」
めいはようやく、胸を撫で下ろす。
自らの存在意義をようやく見出し、リカの傍にいて良いという自信を持てるようになった。
これから、宇宙もきっと平和で穏やかになっていくであろう。
めいとリカは視線を交わすと、お互いを強く抱きしめ合った。
(おわり)
作品名:【完】全能神ゼウスの神 作家名:しずか