黄泉明りの落し子 三人の愚者【後編】
ヌーマスは目覚めていた。
つい先ほどのことではない――最初のほうから彼は、覚醒していたのだ。
全員が静まり、しばらくした後、若者が亡霊のようにふらふらと立ち去ったことも。その後を、悪夢にうなされたかのように跳ね起きたニコールが、そっと追いかけていったことも。この不敵な男は、狸寝入りのままに把握していた。
「何やら、面倒なことになってるみたいじゃねえの。どれ――」
呟き、自身の杖をたぐり寄せると、厄介ごとの様子を探りに行こうと立ち上がった。
彼はすぐに、気がついた。
――匂う。
彼は屈みこみ、地面にあったあるモノを手にした。
それを手放す。
続いて彼は、目星をつけた。
また、あるモノに。
ヌーマスは顔を上げた。その口元は、固く結ばれていた。
皮肉めいた軽口が出る唇と同じものとは、思えなかった。
目が覆い隠されても明白な感情――静かな怒り。
空気の中のかすかなニオイを辿るかのように、鼻をスンスンと鳴らした。
「おいおい、おい……」
ヌーマスはクククッと笑みを零した。
長く、長く。その音の不気味な振動が、静穏な森に響く。
「まっこと、奇縁ってやつだねえ…」
作品名:黄泉明りの落し子 三人の愚者【後編】 作家名:炬善(ごぜん)