黄泉明りの落し子 三人の愚者【後編】
『あんたは本当――いい奴だよ』
ルヴェンは、眼を見開いた。
ヌーマスが遺した剣を、再び手放した。
「いいえ」
ルヴェンは、一人ごちた。
「私は――……」
先ほどまでは夜のはずだったにも関わらず、木々の隙間から、日が差し込んでいた――黄昏の陽光が。
遠のいてこそいるが、唸り声は止んではいない。
だが、静穏な森を、どこからともなく潮風が駆け抜けていた。
それは、木々を揺らし、草葉を揺らした。
草木の囁きが、波立つ中、立ち尽くすルヴェンの黒い法衣も揺れた。
彼から離れた背後にて、ケモノのたてがみも――それを駆る少女の髪もまた、揺れていた。
★終わり
作品名:黄泉明りの落し子 三人の愚者【後編】 作家名:炬善(ごぜん)