Fantasy×Quest
「……ここは本当にゲームの中、なのか…?」
シシャは開口一番そう呟いた。
目の前に広がる風景のリアルさや動いている人々に対してそう思った。
背後を向くと少し水色掛かった水晶のようなモノで造られた女性像が飾られていた。芸術的なその出来栄えに思わずシシャはSS《スクリーンショット》を撮っていた。
そして取り合えずこの町の地図を把握するために歩くことにした。
何分歩いたのか分からないが少しお腹が減ったのでシシャはその辺の人に安くて美味しいお店を聞くことにした。
「ちょっといいか?」
声を掛けたのは黒鎧を着た金髪イケメン少年だった。
「え?僕?」
「ああ。この辺にどこか安くて美味い店を知らないか?今日このゲーム始めたばかりでな。ああ悪い。自己紹介がまだだったな、私はシシャだ」
「ああそういう事なら。僕は“レイ”だ、よろしくシシャ」
「一応聞くがプレイヤーでいいんだよな?レイは」
「ん?ああそうだね。このゲームNPCとプレイヤーの区別付きにくいからね。僕も最初は戸惑ったけど慣れれば平気だよ」
「そうか」
「ああー、まーたレイが女の子と一緒にいるー!」
後ろから聞こえた声に振り向いた。
レイと同じ格好をした少女三人と男の娘一人がやって来た。
「あれは?」
「僕のパーティーだ。学校の同級生兼幼馴染みのゲーム仲間、かな」
「私、邪魔だろう?」
「いや、これも何かの縁だ。紹介するよ僕のパーティーメンバーを」
そして紹介された。
「私は“イツキ”です。よろしくです」
「あたしは“カキノ”だよ、よろしくっ!」
「…わたし、“ミツバチ”…よろ、しく…」
「俺は“タツキ”だ、よろしくな」
「僕を合わせた5人で“黒の刃(ブラックブレイド)”という固定パーティーを組んでいる。よろしく」
何だろう、この感じ。
物凄く良い人たち感が凄いなと思ったのは言うまでもない。
「私はシシャだ。今日始めたばかりで安くて美味い店を探している途中だ」
シシャは自身の自己紹介と現在の状況を簡潔に述べた。
すると彼等は「案内してあげる」と言ってくれたのでその優しさに甘える事にした。
しかし初日に良いプレイヤーと出会えて良かった。
そんな中、黒の刃――略してブラブレとフレンド登録したのだった。
そして辿り着いたお店は屋台だった。
醤油ベースの甘辛い匂いが漂う正にお腹を刺激する屋台だった。
「おお、噂のブラブレじゃねえか!お、そこの嬢ちゃんは見かけない顔だな?新入りか?」
「新入りには間違いないが私は彼らのパーティー仲間ではないな。今日から始めた……ああ、いや、今日この町に着いたばかりの新米旅人のシシャだ。よろしくな」
「そりゃあ悪かった。俺はこの町の住人で“レンジ”っていう者だ!よろしくなカッコいい嬢ちゃん!」
「カッコいいか?」
「雰囲気がな!」
「はは、じゃあオジサン、彼女にクック鶏の丸焼きを1つ」
「おう、まいどあり!」
「む、金なら払うぞ?と言うか練習で払っておきたい」
「ならトレードって言えばお金を出さなくても払えるよ。このシステムの利点は変な盗難に合わなくても済むというものだね」
「盗難とかあるのか…」
「このゲームPKとかあるし」
メニューにある設定の項目のトレードをOFFからONにしておいた。料理を受け取るとチャリン♪と頭の中に響き、頭の上に-600Gと出て、店主の人の頭の上には+600Gと出た。
なるほど。これがトレードかと納得したシシャだった。
パクっと齧ると甘辛いタレとマッチした鶏の丸焼きの肉汁がじゅわっと口の中に広がり表情が緩む。
「美味いな、これ」
「おお、笑った顔が素敵です」
「何か凄くレア…」
「うんうん可愛いってこういうのを言うのよねっ!」
「どうしたレイ、お前の顔真っ赤だぜ?もしかして惚れたか?」
「なななな何を…!!??」
などとブラブレの彼等の話を聞き流しながらシシャはクック鶏の丸焼きを食べ終えた。
作品名:Fantasy×Quest 作家名:hitati