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ショートショート集 『一粒のショコラ』

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ー26ー 喪中はがき


 今年も喪中はがきが届く時期がやって来た。
 父、あるいは母が他界いたしまして、という文面に混じって、時おり、兄が、そして夫がというはがきが届くようになった。時は確実に流れているのだ。

 
 私は夢を見ているのだろうか? 意識が喪中はがきとともに、友人たちのところへ配達された。
「ああ、彼女が逝ったのは今年だったわね。ホント、寂しくなったわ」
 またある友人は、
「まだ、早すぎたわよね。残されたご主人がかわいそうだわ」
 みんな、このはがきを見て私を偲んでくれた。
 
 翌年、私はまた年賀状に乗ってみんなの元を訪れた。
「もう一年たったのね、早いものね」
「ご主人、お元気そうでよかったわ」
 そして、その次の年も、また次の年も、私は友人宅に運ばれた。
 ところが、五年目のことだった。
「あら、今年は連名で来ているわ。ご主人とうとう再婚されたのね」
「もう五年になるのだから、彼女もきっと許してくれるわよ」
(え! 主人が再婚? ねえ、嘘でしょ? 何かの間違いよね?)

 
 私は、そこで目が覚めた。すぐに後ろを振り返り、仏壇の主人の写真に話しかけた。
「私、今夢を見ていたの。私が先に逝った夢。そうしたら、あなたは五年後に再婚していた。あなたは本当にそうするかしら? 仕方がないような気もするけど、やっぱり嫌かな……
 私は再婚なんてしないわよ。ずっとひとりでいるから、いつかその時が来たら、あなた迎えに来てね、絶対よ!」
 
 それから私は、喪中はがきの宛名書きの続きを書き始めた。いつのまにか、書いている途中で眠ってしまったのだった。
 あと一人の住所がわからない。そうだ、主人の手帳に書いてあるかもしれない。
 今まで辛くて開けなかった主人の手帳。思い切って開いてみた。懐かしい筆跡が飛び込んできて、目頭が熱くなった。そして、あるページで私の目が止まった。
 

『 母さんへ
 今までありがとう
 きっと迎えに来るから それまで人生を楽しむんだぞ
 それじゃ いったんバイバイだ 』
 

 弱々しい筆跡だったので、亡くなる間際に書いたのだろう。私はそれを読んで、思いきり泣いた……
 泣くだけ泣いて、晴れやかな気持ちになった私は、はがきを出しにポストに向かった。晩秋の澄み渡った青空を見上げ、
(あなた、いつかまた会えるわね)
そう心の中でつぶやくと、元気が湧いてきて笑みがこぼれた。
 そして、私は喪中はがきを投函した。