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ショートショート集 『一粒のショコラ』

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ー29ー 脳内事情


「ほら、君はそうやってすぐに感情的になる。僕が代わるよ」
「あなたのように冷静で可愛げがなくては、男が寄り付かなくなるわ」
「同性に好かれることは大切なことだよ」
「好かれるのではなくて、男に色目を使わないからライバル視されないだけよ」
「見る目のある男は、内面がしっかりした人を選ぶものさ」
「みてなさい、今に素敵な彼をゲットするから」
 
 
「うまくいかないようだね。女のエゴ丸出しだから男が逃げていくんだよ。それじゃ、いつまでもおひとり様だね」
「わかったわ、じゃ、あなたのお手並みを拝見させてもらうわ」
 
 
「ほら、あなただってだめじゃない。そんな理詰めの女なんて煙たがられるだけよ」
「君みたいに感情だけに走るよりはましだと思うけどね」
「このままじゃ、お婆さんになってしまうわ」
 
 
 ひとりの女の脳の中で、ふたりはいつも口論し合いながら、操縦かんを奪い合っていた。
 
 
「代わる代わる主導権を握るのではなく、一緒にやってみたらどうだろう?」
「どういうこと?」
「感情的な可愛さと冷静な優雅さがマッチして、素敵な女性になれるんじゃないかな」
「私たちがひとつになるっていうこと?」
「そうだよ」
「そんなの嫌だわ、女らしい私というものが消えてしまうじゃない!」
「まあ、そう感情的にならないで。ところで、今度配属されたメガネ君、感じいいと思わないかい?」
「ええ、たしかに。何かとても惹かれるところがあるわね」
「僕の冷静な判断と君の感情的な直感が一致したわけだ。あとはどうすればいいかわかるよね」
「そうね、これが最後のチャンスかもしれない」
 
 
 ほどなく、脳内の会話が消えた女と、メガネの男が楽しそうに話す姿が見かけられるようになった。お局様に春がきた、そんな噂が春風とともに、社内を吹き抜けていった。