「熟女アンドロイドの恋」 第二十六話
アメリカに居たエイブラハムはその報道を内藤と梓に知らせる。
まもなくやって来るだろう在日本大使館の役人と、どう接見するかを打ち合わせる。
「内藤さん、梓さん、これはあらかじめあなたたちが仕組んだことだったのですよね?」
エイブラハムはそう皮肉たっぷりに聞いた。
「エイブラハムさん、そうです。この方法以外に平和的に我々の意志を日本へ伝えることは出来ないと考えた末です。あなたやストリーツカさんに内緒にしていたことは申し訳ないと思いますが、何度も何度も申し上げてきたことを叶えて頂けないから仕方が無かったのです」
「私は時期尚早だと以前お伝えしました。ご信頼いただけなかったことは残念です。今後日本政府とどのように対応されるのか教えて頂けませんか?」
「まず初めに言っておきますが、あなたとお世話になったニューイスラエルにはこれから間違いなくストリーツカさんから報酬が届くことになるでしょう。私を支援して戴けたお礼はお返しできると思っています。お金では無いと言わないで下さい。初めから国家の財政危機を救う目的で我々は組んだのですから」
「内藤さん、ビジネスとしてはその見方は正しいと言えます。私は命がけで梓さんを守りました。日本に居る時も、アメリカに来た折も、そして母国でもです。それは内藤さんを信頼し仲間だと強く感じていたからです。現在その信頼関係が壊れてゆこうとしています。なぜこうなったのでしょう?教えてください」
内藤は少し考えて梓の方をじっと見た。
梓は首を横に振った。
「私は梓と相談して自分たちがどうすべきか結論を出しました。そのことはあなたにもストリーツカさんにも伝えました。初めにあるのは自分の父親と梓の家族を殺されたことを裁判で明らかにするという事です。エイブラハムさんだって子供や親がそういう目に遭わされたら必ず私と同じ気持ちになるはずです。国家や特定の利権のためにその思いを断ち切ることは出来ないはずです。人の血が流れているのならですが」
エイブラハムはうつむき加減で返事をする。
「確かにそうでしょうね。私や国王が協力的だったことはそんな内藤さんたちの思いを感じていたからでした。そこに嘘はありません。アメリカと日本という巨大国家との対決には慎重を期さないと命の危険が迫ります。まして、50数年も前のことを蒸し返すわけですから、現政権や軍関係の人たちにとっては、預かり知らぬことのように降りかかって来て大迷惑だと思われるでしょう。どんな手を使ってでも波風を立てずに収めたいと考えることは至極当然だと見ていました」
エイブラハムは自分の思いが内藤と梓のためを思っているからだと強調していた。
作品名:「熟女アンドロイドの恋」 第二十六話 作家名:てっしゅう