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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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knuckleheads

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 病院の外で煙草を吸っていると、ロビーのあたりに人だかりができて、おれは火をつけたばかりの煙草を灰皿にねじ込んだ。カローラGTをロビーの目の前まで動かし、看護師の一人に話しかける。
「すんません、遅うなりました」
「ここから、お願いします。何かあればすぐに連絡ください」
 看護師はそう言って、助手席のドアを開いたおれに愛想笑いを返した。一泊の外泊許可。
 サンボは死ななかった。おれが撃った一発が左耳と左手を吹き飛ばし、二発目は直撃しなかったが、破片が目に突き刺さって、両目を失明した。脳みそにも、若干の後遺症が残った。おれは助手席にサンボを乗せると、事務所に戻った。明るい場所と暗い場所の往復。サンボからすれば真っ暗闇でも、おれにとっては、今はどっちも同じぐらいの明るさ。
 サンボは手術を終えてすぐ、見舞いに訪れたおれに謝った。金の件も、うちの親の件も、全て。筒元の親父から全て聞いたと言っていた。頭の一部分が欠けたからといって、『本当に申し訳ないことをした』なんて言葉が飛び出すとは、想像もできなかった。
 事務所の二階にどうにかしてサンボを上げて、おれは言った。
「ちょっと、ビール買ってきますわ」
 コンビニまでの道を歩きながら思う。何も盗まれることがなかったんだから、誰も何も得なかったか? それは違う。めぐみが父親の関心を買い戻したみたいに、おれも手に入れたものがある。喉から手が出るほど欲しくて、それでも諦めていたもの。
 それは、親父と母さんの昔話。例えば、昔は二人もおれと同じようにどうしようもなく間抜けで、向こう見ずな犯罪者だったということ。おれが生まれるより前から、名前は『良平』に決めていたこと。
 目の見えないサンボは明後日の方向を向きながら、おれが知り得ない二人の若い頃の話を饒舌に語る。疲れてくると、壊れたテープレコーダーみたいに何度も何度も同じ部分を再生するときもある。でも、それに耳を傾けている間は、あの不吉に揺れる紙箱じゃなくて、親父と母さんが入庫したばかりの車を洗車している後姿を思い出す。
 コンビニでビールを二本買い、袋をぶら下げてもと来た道を帰る。まだまだ、サンボの口から聞きたいことはたくさんある。二人の好きだった歌や、お気に入りのテレビ番組。サンボが退院しても、話を聞くためなら、おれは何度でもビールを買いに出かける。そして、サンボが話をするために、明後日の方向をぼんやり見ながら記憶を掘り起こしているに違いない間、帰り道に確信する。
 
 いつかふと思いついた日に、おれは戻らないだろうと。
作品名:knuckleheads 作家名:オオサカタロウ