⑥全能神ゼウスの神
「封印すると、怒りで負のオーラが増幅し、浄化が難しくなるから。」
リカの口調も表情も無機質だけれど、全身から悲しみや愛情などの感情が複雑に絡み合ってみえる。
「私は、ヘラを取り戻したい。」
立ち上がったリカは、力強く宣言した。
「だから皆、力を貸してくれ。」
リカが頭を下げると、その場にいた全員が慌てて跪く。
「精一杯努めます!」
ギルが笑顔で応えた。
そんなギルをやわらかに見つめたまま、リカが無言で杖を私に手渡す。
(やっぱり重い…。)
ずっしりと重い杖に、改めてリカの背負うものの重さを感じ、それを少しでも分けてもらおうと胸に抱きしめた。
リカは天井を仰いで、気合いを入れるようにふっと息を吐く。
そして床に映るヘラ様を見下ろすと、白銀の髪がサラサラと零れ落ちた。
髪に隠れた横顔はどんな表情なのかわからないけれど、リカが強く決意したことは感じ取れる。
思わずその背に手を添えると、リカが小さく身をふるわせて私をふり返った。
「一緒に、頑張ろうね。」
(ひとりじゃないよ。みんないるから。)
無機質な金色の瞳を見上げて微笑むと、リカの体から力が抜ける。
「…ん。」
小さく頷いたリカは、ゆっくりと星に向き直った。
そして、久しぶりに手をかざす。
その瞬間、地底からわきあがるような唸り声が室内に響いた。
体の内側をふるわせる恐ろしい声に魔導師達が戸惑う中、リカが私へ手を差し出す。
「めい!」
慌てて杖を手渡すと、リカは片手でそれを高く掲げひと振りした。
すると、室内にプラズマが走り、激しい雷鳴と共にヘラ様が現れる。
「サタン、負のオーラ浄化!ミカエル、正のオーラ補充!ザイード、時空間の調整!ギル、この時空間以外全て閉じろ!」
リカの指示と同時に、それぞれが力を発するべく構えた。
(つづく)