赤秋の恋（千代）
「星座を見に行きましょう」
「いつですか」
「今から、大丸駐車場、よく見えるのよ」
「ご主人が帰ってくるでしょう」
「帰るのは10時過ぎるから、それまでには戻れるから」
佐藤は千代さんは行動派なのだなと感じた。
「天体望遠鏡も買っていこうかな」
「もったいないですよ。５万円くらいしますから」
「へそくりがあるの」
「お子さんのために買われるのですか」
佐藤の言葉はあてずっぽうだった。まだ千代の家族構成を知っていたわけではなかった。
「子供はもう大学生よ。おとめ座を見たいの」
「そのためにですか？」
「そう、我がままですか。贅沢かしら・・・」
「後でお使いになるなら・・」
「豪華な食事だって、その時だけでしょう」
千代はおとめ座を見たい気持ちの中に、佐藤と星を見てみたい気持ちがあった。
ショピングモールに立ち寄り、千代は天体望遠鏡を買った。駐車場に着いたのは7時近い時間だった。車のライトを消すと、あたりの景色は見えないほど暗かった。かなり、坂道を上ったので標高の高いことを佐藤は感じた。千代はスマホの電気で足元を照らし、佐藤の手を取った。佐藤は千代の手のぬくもりを感じる余裕を自分で分かり始めていた。
三脚を立て、佐藤は北斗七星の方向にレンズを向けた。スピカが見つかった。
「この白く見えるのが、スピカです。10個の星でおとめ座はできていますが、分かりずらいです」
千代は望遠鏡に目を当てた。
「きれいな星だわ」
「もっと、ほかの星も見たいな」
「勉強したらいろいろわかりますよ」
「佐藤さんはなぜ詳しいの」
「友達が星だけですからね」
「1つの星の名前を知ったこと、これだけたくさんの星の中で、意味あるわ。偶然、佐藤さんに会ったみたいだわ」