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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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赤秋の恋(千代)

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衣装替え


 ラーメンを食べ終えると、女性は器を返しすぐに戻ってきた。
「なにか、洋服を買いましょう」
「ぼくにはこれで十分です」
「おじさま、そうね、お名前教えてくださいね。私は、赤羽千代です」
千代は初めから、呼び方に戸惑っていた。『おじさん』では40歳を過ぎた自分自身『おばさん』と呼ばれたくないと思っていたから、『おじさま』にしたのだ。彼にはそれとなく品を千代は感じていた。
「佐藤です」
佐藤は相手がフルネームなのに、あえて名を言わなかった。電話帳で調べたら素性が解かってしまう気がしたのだ。
「佐藤さん、外観は大切よ。第一印象」
採用試験で大卒者を面接すると、ロボットのような服装で、ロボットのように、インプットされた言葉が返ってきた。佐藤はその中から個性を重視した。職場は学校と同じなのだと、佐藤は朝礼でよく言葉にした。学ぶこと、評価のある事、予習、復習まである。其れが自分の成長と、会社の成長につながるのだと。
「解りました。安ものでしたら自分で買えます」
「いいの、私に買わせて、主人も身なりで判断する人だから」
 佐藤は旅に出た時、現金は10万円持っていた。1日1000円で生活するつもりでいた。朝と夕飯は6枚入りの食パン。100円で買えた。其れを3枚づつ食べた。昼は500円程度にして、体力を維持した。金が無くなればカードを使えばよいという余裕はあったが、まだ1万円程の残金があった。
 佐藤は後部座席にいたが
「こちらの席にどうぞ」
と助手席に座るように言われた。さすがに、今までは気にもしなかった自分の体の臭いが気になってきた。2か月の間に風呂には3回入っただけであった。
 ためらう佐藤を千代は手を摑んで、後部座席から外に出した。その時、車のステップを踏み外した佐藤は、千代の胸に頭をぶつけてしまった。
「失礼」
「ごめんなさい」
 佐藤と千代の言葉は同時であった。
 化粧水の匂いが、エアコンの風に乗って、佐藤に話しかけるように千代の存在を感じさせた。
「以前はどんなお仕事されていたの」
 佐藤は、彼女をスケッチしたい衝動に駆られていた。
「似顔絵を描いていました」
「ショピングモールなどで見るわ」
「お礼に描かせてください」
「駄目よ。じっと見つめられるのは、恥ずかしいから」
「もう見ないですよ。画用紙と鉛筆を買えば描けます」
「すごいな」
 洋品店に着き、下着からスラックス、シャツを買い、車の中で着替えた。
「見違えたわ」
「ありがとう」
 佐藤は素直に礼を言った。

作品名:赤秋の恋(千代) 作家名:吉葉ひろし