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「今日って…11日だっけ」

 ベンチの隣で呟いた哲弥の顔を、私は覗き込む。

「用事でも思い出した?」

「先月の昨日の事を、思い出しただけ」

「何が有ったの?」

「山での、初 遭難記念日」

「…え!?」

 私は声を上ずらせた。

「ま、またぁ…大げさにぃ」

「助けてもらえなかったら、悪くすると凍え死?」

「そ、そうなんだぁ…」

「宇江山で、なんだけどね」

「─ は?」

「背の低くくて…ショートヘアの ぽっちゃりさんな女の子に、助けてもらった」

 反射的に私は、哲弥が掛けていた眼鏡を取り上げる。

「命の恩人の姿も ちゃんと見えないポンコツに、こんなものは不要!」

「─ いきなり、何?」

「私の何処が、ぽっちゃりなの?!」

「…」

「髪だって短くないし、背だって哲弥より高いでしょ!」

 語気を荒げて、私は食って掛かった。

「あんたが助けられた場所は安威山で、日付は先月の昨日じゃない!!」

「─ 僕は、何も言ってないから。」

 我に返った私は、自分が しでかした事に気が付く。

「ひっ?!」

「バラしたのは、こ・ま・や だからね。」

作品名:案内して 作家名:紀之介