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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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ブドウのような味の恋

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パリを発つとき裕子から小さな額を渡された。ハガキ1枚ほどの大きさの中にぶどうとキツネが描かれていた。
税関を通過するまでその画家の名前を知らない私はその銅版画の高価な事を知らされた。
なぜ裕子はこれほど高価なものを私によこしたのだろう。
「パリでの事は夢ですから」
髪を金髪に染め、スレンダーな容姿は裕子には見えなかった。ロワールのホテルでその金髪の髪を掻き乱した裕子。
オンフルールの港町では絵を描いた。
その姿は清純であった。
どちらも同じ裕子である。私はどの裕子にも惚れた。
裕子自身
「今夜の私は娼婦かもしれない」
そんなことを言った。
「画家に見えるかしら」
その言葉はやはり裕子本来の若さがあった。
裕子と別れてからメールは届かなかった。
私は自分からメールを入れるつもりはなかった。
裕子が私に渡した長谷川潔の版画がそうさせた。
ぶどうを見ていたのだろうか、この狐は?
私であり、裕子である。あるいは賢い妻かもしれない。
この銅版画は裕子との関係を現実のものであると言いながら夢でもあったと言っていた。

あれから1年過ぎ、妻とぶどう狩りに出かけたが、新しくそこにあったのはレストランであった。
妻とそのレストランで食事した。
平凡な1日である。
裕子との関係はこの平凡さからだったような気もした。