ポジティぶ なんだから (最終話の前に第9話追加)
第4話 ワープ出来るんだから
「お、今なんで左折したんだ?」
「この先の信号が、きっと赤になると思って」
「こっちにも、信号は在るじゃないか」
「でもこの先は大通りになるから、信号は直進時間が長くて、青の確率が高いんです」
「なるほど、赤だったとしても、待ち時間は短いからか」
「いつもそんなこと考えてます」
「そういう積み重ねが大事だ。早く結果を出すやつは、いつもそんなこと考えるもんだ」
ボスはいつも褒めてくれるんだから。
「料金所混んでるな」
「この橋の料金所にはETC付いて無いから、いつも混むんですよ」
「どのレーンに並ぶのがいいか考えよう?」
「この列が短いですけど、そっちのレーンは大型トラックが2台並んでるから、台数的にはそっちが早いはずですね」
「いや、その前に大型バイクが2台見えた。バイクはお金出すのに時間がかかるだろ」
「ああそうか。グローブ脱いで、財布出して、結構面倒ですからね」
「さあ、どれにする?」
「やっぱりこのレーンで正解かな。軽の自家用車が多いけど、地元民は回数券使うから、手渡しに時間がかからないですから」
「こんなことに頭を使うのは、練習問題を解いてるみたいなもんで、ビジネスの役に立つからな」
いつも何かに意味を見出すんだから。
「これを繰り返して行けば、移動が早くなる。カーナビなんか信用してるようじゃダメだ」
「確かに、僕もカーナビはほとんど利用してませんよ」
「そうか、じゃ、地図が頭に入ってるだろ」
「はい、昔から方向感覚はいいです」
「方向感覚とかじゃなくって、上空から見下ろしたようにルートをイメージできるだろ」
「確かにそのとおりです。“慣れ”ですかね」」
「それを訓練できてるって言うんだ。そういう積み重ねが大事なんだ」
あれ? ちょっとハマッちゃったみたいなんだから。
「ボス、いつもびっくりする所に登場しますよね。横浜のホテルにいると思ってたら、昼ごはん、京都の会場で食べてたり」
「テレポーテーションが使えるんだ」
「それだけ、人より過密に行動してるってことですよね」
「そうだ。移動時間も有意義に使うとか言うけど、運転してたら電話もできないし、電車でもPCなんかやってられない」
「確かにそうですね。移動時間なんて、サボってる時間と同じですね」
「移動時間が短かければ、それだけたくさんの人に会える」
それから、ボスの移動は驚くほど早くなったんだから。
「あれ? 今すれ違ったの、ボスの車だな。こんなところで何してんだろ。追いかけてみよう」
僕はUターンして、ボスの車の後を追った。
「昼には○○市に行くはずなのに、国道を通らず、山道を抜けるつもりかな」
狭い山道に入った。車1台がやっとくらいの狭い道だ。
「別れ道でスピード落としたな。きっと道に迷ってるぞ」
暫くするとボスの車は、ちょっとした道路脇に停車した。
「どうしよう。声かけようかな」
横を追い抜く際に車内を見たら、ボス一人でカーナビを操作してた。
「こうやって、いつも一生懸命、近道調べてるんだな」
そう思ってわざと素通りした。その道は通過が困難だったけど、○○市に抜けるには確かに近道だった。
僕は市街地にたどり着き、腹ごしらえにラーメン屋に立ち寄った。その時ボスから電話が、
「今どこにいる?」
「はい。□□でラーメン食べてます」
「俺も近くにいるから、そこに行く」
その後すぐに、ボスの車が店のガレージに入って来るのを、窓から見ていた。ボスは駐車した後、すごい早足で店に入って来て、僕を見付けると急にゆっくりと、余裕の表情で近付いた。
「早いですね。もうこの街に来てたんですか。国道混んでませんでしたか?」
「フフフ、俺の車はワープが使えるから」
こういう努力の積み重ねなんだな。ボスは今日もご満悦なんだから。
作品名:ポジティぶ なんだから (最終話の前に第9話追加) 作家名:亨利(ヘンリー)