ポジティぶ なんだから (最終話の前に第9話追加)
最終話 日本人はネガティぶ!なんだから
「何でしょうね。先方の気持ちを考えると、なかなか断れないんですよ」
「それな、変に気持ちを考えてやるからだ。そうじゃなく、相手にとって一番いい結果になるように考えてやれ」
「あ、そうですね。それが思いやりですよね。でも、明らかに相手はそれを望んでない時に、そうした方がいいよって、勧めにくいんですよ」
「なんでだ? そうした方がいいって思ってるんなら、そう言ってやれよ」
「そうなんですよ。言ってやる方がいいんですよね。でも、いい方に受け取られないような気がして」
「お前日本人だな」
『NOと言えない日本人』古いワードだけど、ボスには無縁な言葉なんだから。
「日本人全員がマイナス思考だって知ってるか?」
「大体そうでしょうね」
「大体じゃなく、100%がネガティブ発想なんだ」
「ボスも含めてですか?」
「そうだ」
「?????」
どう考えてもこれだけプラス思考のボスが、自分のことをネガティブだなんて認めるはずがないのに。
「日本語で生活している以上、絶対にネガティブになるはずなんだ」
「どういう意味ですか?」
「昔から日本語は、マイナス表現でできている」
「ええ? どういったところがですか?」
「『河童の川流れ』って、河童ほどの泳ぎの名手がなんで溺れるんだ? 俺なら『河童は流されない』って諺にするぞ」
「ああ。確かにその方がプラス表現」
「『弘法も筆の誤り』もそうだ。おんなじ意味だろ」
「『弘法は書き損じない』の方がポジティブですよね。なるほど」
「『身から出た錆』は今までの行動が原因で、どえらい目に会うってことだろ」
「まさしくマイナス表現」
「中国だと『自業自得』って四字熟語になるんじゃないか?」
「四字熟語は多分、中国語起源ですよね。自分がやったことで何かを得られるって意味です」
「そうなんだ。これはポジティブな表現なのに、日本人は何か失敗した時に『自業自得』って言うんだ」
「ホントだ。使い方間違ってますね」
「同じ意味の諺で、英語だと『Have myself to thank』てのがあって・・・」
「『自分自身に感謝あれ』ですね。思いっきりプラス表現。『身から出た錆』じゃ恥ずかしいです」
「だから中国人は失敗なんか恐れずガンガンやるし。アメリカ人も夢を持って物事に取り組めるんだ」
「日本語使ってたら損してますね」
「物心付いた時から、マイナス思考を叩き込まれるようなもんだからな」
さすがにボス。達観してるんだから。
「『棚からぼた餅』はどうですか? これラッキーて意味でしょ?」
「そう思うか? 単純にポジティブに受け取れるけど、みんなどういう意味で使ってる?」
「たまたまラッキーが訪れた時に使いますよね」
「最悪だと思うぞ。ラッキーを神頼みにしてるやつが使う言葉だ」
「そこまで考えて使ってないですけど」
「そうだろ。でもそんな諺があるから、努力しないで偶然のラッキーに期待するやつばっかりになるんだ」
「『家中を探せば棚からぼた餅』だったらいいですか?」
「おお、そうそう。努力した結果ってとこが重要なんだ」
言われてみて初めて気付いたけど、確かに日本人は日常的にマイナス表現を使いまくってるんだな。
「でもボスは、日本語しか喋れませんよね」
「ああ、だからこそ日本語のいいところを理解しようとして気付いたんだ。お前は英語も中国語も分かるんだろ。そういう表現を使うようにしたらいいんじゃないか?」
「でも外国語の諺なんて全然身に付いてないですよ」
「バリ島で仕事した時、インドネシア語も勉強してたじゃないか。その言葉はどうだった?」
「インドネシア語は、共通語を作るためにマレー語を輸入したそうで、学校に行けてないような国民でも覚えられるように、ものすごく単純化されてるから、文法的には未成熟な言語なんです」
「覚え易くっていいじゃないか」
「それが、過去形や未来形さえなくってすごく曖昧で、自分の好きなように受け取るから、人間性もすごくいい加減になってしまう危険性もあるんですよ」
「それで発展しにくいのかな?」
「その危機感は以前から感じてましたけど、まさか日本語まで危険な言語だって、初めて知りました」
「誰も気付かずに毒を飲んでるようなもんだ」
「ちょっと気が重くなります」
「だから、そんなマイナスのことは考えるな」
「ボスが言い始めたんじゃないですか」
「・・・そんなこと忘れた」
さすがボス、ポジティぶ! なんだから。
つづく?
作品名:ポジティぶ なんだから (最終話の前に第9話追加) 作家名:亨利(ヘンリー)