黄泉明りの落し子 三人の愚者【前編】
森は静穏に満ちていた。さながら、外の世界とは切り離されたように。
そこに生き物の住まう気配はない。まるで戦渦の末に打ち捨てられた古城のように。あるいは、風雪と大地の浸食を受けたいにしえの遺跡のように。その森の空気は、ただただ澄み切っていた。他のあらゆる濁りも、音色の彩りもないままに。
夕暮れの明りが、枝葉の隙間から流れ落ちている。明りを受けた地上の草葉は、生の歓喜を謳うかのようにみずみずしく煌き、影の草葉は永き眠りにつくかのように押し黙っていた。
日は少しずつ動いていく。光と影を受ける地が流転していく。まるで生と死の循環を表すかのように。あらゆる生命の流れの、永遠を表すかのように。
今、一つの花が光を浴びていた。朝露を浴びた後のように、その真紅の花は輝かしかった。
だが、大きな影が降り立った次の瞬間、その花はぐしゃりと踏み潰された。
この森に、足を踏み入れた者がいたのだ。
作品名:黄泉明りの落し子 三人の愚者【前編】 作家名:炬善(ごぜん)