きょうはくデート!!
岩崎 ……(やばいやばい。完全に後ろから抱きついちゃったっ!まさかのアクシデントだけどラッキー!神様ありがとう!これも日々善行を積んでいる賜物ね!それにアイツ、呼吸乱れてなかった!?最後まで無言だったのは私の思わぬアプローチにイチコロだったということ!さぁさぁ、あともうひと押しで仕留めてやるわよ、沢田研二!)
研二 なぁ
岩崎 な、なによ(ドキドキドキドキ)
研二 トイレ…行っていいか?
岩崎 あ、そうね。私もついでに行ってくる。
研二 そうか。じゃあ終わったらそこのベンチ付近にいるよ。
岩崎 わかったわ。
●各々、トイレに行き、先に研二が戻ってくる。
研二 ふぅ…ようやく休めたって感じだ…これ、残り体力もつのかよ…ん?あそこのお店、人で賑わってるな。なんだろう?
●人だかりが出来はじめている店が近くにあったので、研二は様子を確かめに行く。しばらくして、岩崎が戻ってくるが、研二の姿がない。
岩崎 あれ?アイツ、この辺で待ってるって。一体どこ行ったのよ!
●少し辺りを捜索する岩崎。
岩崎 あ!いたいたいた!
●ベンチへ戻ってくる研二を発見。
研二 あ、やべっ
岩崎 ちょっと!何やってるのよ!ここで待ってるって言ったじゃない!
研二 すまん!お前なかなか来ないからその辺を散策してたわ
岩崎 アンタって本当にデリカシーないのね
研二 いやいや、岩崎は別にデリカシー気にする必要ないだろ
岩崎 え?
研二 むしろ今日は俺の方がビクビクしてたんだから、岩崎の方こそ俺に対するデリカ
シーをもうちょっとは…って岩崎?
岩崎 ……
研二 あっ、しまった!
岩崎 ビクビクしてたの?今日ずっと?
研二 いやぁーその、ビクビクというか、壺を割った賠償に一体何を強要されるのかなーっと…
岩崎 壺を割った賠償……
研二 俺がこの前割った壺だよ
岩崎 あー……そうだった。そうだったね。今日はそのための遊園地だった!すっかり忘れてたよ…うん
研二 岩崎?
岩崎 そうだよ。あんたには壺を割った賠償をしてもらわないとなー
●岩崎、思いっ切り拳を振りかぶり研二の胸元へ殴りかかる。研二もいつも通りの鉄拳が来ると思い、つい身構える。しかし、研二に叩き付けられた拳はとても弱弱しいものだった。
岩崎 はい。終わり。
研二 え?
岩崎 今のが罰。
研二 罰って…これが?
岩崎 うん。だから今日の遊園地は終わり。
研二 終わり?え?まだアトラクション2つしか
岩崎 うるさい!!
研二 岩崎?
岩崎 あースッキリした!アンタにたくさん嫌がらせできたし、その困ってる顔が見たくて今日はアンタをここへ連れて来たんだった!そう、その顔よ!もう見れて満足したし、私の用事も済んだ。だからアンタは帰っていいわよ。壺の事も今のでチャラ。
研二 いきなりどうしたんだよ
岩崎 別にいきなりじゃないでしょ。最初からそのつもりだったんだから
研二 いや、いきなりだっただろ
岩崎 アンタには関係ないでしょ!
研二 関係ないって、お前な
岩崎 あーそうだ!私ちょっとトイレにポーチ忘れて来ちゃった。取りに戻るから、アンタは先に帰ってて。入り口に私の家の車手配しておくからさ。運転手には私からうまいこと頼んでおくから。
研二 いや、あのな、岩崎
岩崎 じゃあね。今日は、その…付き合わせてごめんなさい。
●トイレの方向へ走っていく岩崎。取り残される研二。
●先程の場所からか真反対の小さな休憩スペースでへたり込む岩崎。
岩崎 私のバカっ!!バカっ!勝手に舞い上がって勝手に幻滅して、挙句アイツの前であんな姿見せて…情けない!アイツが私の事を好きでもなんでもないことぐらい分かってたことじゃない。うん。分かってた。分かってたけど。
●今日の遊園地でのデートの光景が脳裏に蘇る
岩崎 楽しかった…のにな。楽しんでたのは、私だけか。
研二 トイレ行ったんじゃねーの?
岩崎 ぎゃーーーー
●ベンチの上から岩崎を覗き込む研二
研二 ビックリしたよ、急に走り出して。それにトイレの前でいくら待っても戻ってこないから、探したぜ。
岩崎 は?
研二 は?じゃなくてさ。
岩崎 探しにきたの?私を?
研二 そうだけど?
岩崎 なんで…
研二 うーん…この前の壺…
岩崎 それはもういいって!
研二 これなんだけどさ
●研二、小さい包みを岩崎に渡す。
岩崎 なに?これ
研二 さっきお前を待ってる時に見つけてさ。その…壺の代わりになるとは思ってねーけど、その、なんだ…岩崎にやるよ。
●中には、遊園地で人気の髪飾りが入っていた。
岩崎 ……
研二 なんか言えよ!もちろんこれだけじゃ足りないと思うけど…
岩崎 ……あ、ありがとう。
研二 おう。
●沈黙
岩崎 これ、つけてみてもいい?
研二 タグそのままだから上手く付かないと思うぞ?
岩崎 アンタって本当に一言余計ね!
研二 は!なんだと!!
岩崎 ……(だめだ、このままの勢いで何か今までため込んだ全部の思いをぶちまけてしまいそうだ!顔が熱くてはち切れそう…!)
研二 なぁ、岩崎
岩崎 な、なにかな!?
研二 とりあえず……俺への罰は終わったってことでいいんだよな?
岩崎 あー…そうね。終わったわね。
研二 それじゃあさ…
岩崎 …(ゴクリ)
研二 これから遊園地を思う存分楽しめるな!!!
岩崎 へ???
研二 いやぁー変に気を使って久々の遊園地を全然楽しめなかったからさ!これで肩の荷も下りたし!好きなアトラクションを好きなだけ時間いっぱい遊び尽くせるぞ!
岩崎 え?ちょっと切り替え早くない?ねぇ!
研二 俺、次はジェットコースター乗りたいなー
岩崎 ちょっと私さっきまで落ち込んでたんだけど
研二 え?そうだったの?岩崎でも落ち込むことがあるんだな。まぁでも、今は元気そうじゃん!
岩崎 こいつ…!
研二 ほら、いくぞ!!
岩崎 ちょっと待ってよ!ねぇ!私の話聞いてる!?
岩崎 (あぁ、そうだった。私はこんなバカでどうしようもないコイツだからこそ、好きになったのだった。デリカシーの欠片も無ければ相手の都合なんてどうでもいい。それでいて、土足で入った心の中にそっと花を植えていく。全く…こんなの反則じゃない…)
●再び遊園地を周り出す二人
左回りか右回りか。この胸の高鳴りは遊園地の構造云々ではない。これは間違いなく、目の前にいる男がもたらした、とても暖かく清々しいほどに自然な「違和感」と言う名の恋なのであった。
おわり
作品名:きょうはくデート!! 作家名:月とコンビニ