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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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「私は君の異空間からものを取り出す手立てはない」
 マナは紅葉の言葉に安堵の表情を浮かべた。
「――だが、できないこともない」
 これは紅葉の言葉ではなかった。第三者の言葉である。
 第三者の顔を見たマナの表情を曇る。
「紅葉君、久しぶりだ」
 そこに立っていたのはマナの師匠であるヨハン・ファウストだった。
「ここで二人の話は失礼だが立ち聞きさせてもらった。私ならば、マナの異空間からものを取り出すことが容易くできるが?」
「お師匠様、立ち聞きなんて下品なことなさらないでくださいますか?」
 マナの口調は師に対しては変わる。いつもより丁重になるのだ。
「我が弟子として、私がここに立っていたことにも気づかない方が問題だ」
 相手を見下すような笑いを浮かべるファウスト。これに対してマナは全く反論できなかった。
 師が近くにいたことに気づかなかったのは事実である。ファウストはマナよりも高位の魔導士であると共に、弟子であるマナにも計り知れない魔力秘めていた。
 飲みかけの紅茶を飲み干したマナは急に立ち上がった。
「そうだったわ、急用があったんだったわ。ねえアリス?」
 この場から逃げるべく、マナは片隅でじっと立っていたアリスに助けを求めた。だが、アリスは無表情な顔で冷たく言い放った。
「何も御予定は御座いません」
 仲の悪さがこんな時に仇となった。
 逃げようと走ったマナの前に紅葉が立ちはだかる。
「何も予定はないそうだが?」
「ちょっと、トイレに……」
 素早く後ろを振り返り逃げようとしたマナだったが、そこにはファウストが立っていた。
「魔導書を出したまえ。さもないと、お仕置きだ」
 観念したマナは両手を上げ、自分の周りに大量な魔導書を異空間から出した。
「あの遺跡から持ち出したのはこれだけよぉん」
 おそらく30冊くらいだろう。この中に探している魔導書がある。
 魔導書を一瞥したファウストは次に紅葉に視線を向けた。
「ところで紅葉君。なぜ魔導書が必要なのかな?」
「殺葵とやらを封じるために必要なのだ」
「ほほう、それはおもしろい」
 不純な笑みを浮かべるファウスト。マナも殺葵という名前に反応して眉をひそめた。
 数ある魔導書の中から紅葉は一冊の魔導書を手に取った。その分厚い魔導書の表紙には狼と鷹が描かれていた。
「どうやらこれのようだ。ところでマナはこの中身を読んだのかな?」
 紅葉の問われたマナは首を横に振った。
「読まなかったわ、表紙すら開けられなかったのよ」
 遺跡から持ち出した魔導書で唯一マナが読むことができなかった魔導書。魔導書には封印が架けてあり、マナの力では開くことができなかったのだ。
 目当ての魔導書は見つかった。後はこれを時雨たちのもとへ届けるだけだ。

 帝都第二の大きさを誇るエデン公園。この公園は帝都の中心に位置し、その公園の東にはメビウス時計台という建物が立っている。
 今、エデン公園は帝都政府による厳戒な警備が行われていた。
「また、あなたですか――帝都の天使さん」
 ファーアはにっこりと笑った。彼女の目の前に現れたのは時雨と〈大鷹〉だった。
「仲間に入れてくれないかなぁ?」
 ふあふあした惚けたような口調の時雨にフィーアはうなずいて見せた。
「いいでしょう。ですが、今回はわたくしどもも戦います」
 前回は殺葵の襲来を見ているだけであった帝都政府だが、今回は殺葵と戦うというのだ。前回と今回、いったい何がそうさせたのか?
「ボクには連れがいるんだけど、この人も一緒に戦っていいかな?」
「殺葵を封印していた神殿の〈名も無き守護者〉です」
 頭を深々と下げ挨拶をした〈大鷹〉だが、ファーアはこの人物が何者なのかすでに知っていた。
「存じておりますわ。殺葵の封印されし神殿の守護者ですね?」
「わたくしのことをご存知なのですか?」
「ええ、全て知っております」
 不適な笑みを浮かべたフィーア。その心の奥底には何か秘めていた。
「ですから、帝都政府は時雨さんとこの方のバックアップをいたします。がんばって殺葵を封じてくださいね」
 封じる――それは端から殺葵を抹殺する気が帝都政府にはないということ。世界最強と謳われるワルキューレたちでも殺葵を倒すことは難しいのか、それとも別に……?
 フィーアに連れられ時雨たちは巨大な時計台の前まで来た。このメビウス時計台の前で殺葵を向かい撃つのだ。
 メビウス時計台の警護をしているのはファーアを含めてワルキューレが三人だけであった。時雨と〈大鷹〉を加えても全員で五名にしか満たない。相手は神威神社と帝都タワーを全壊された相手なのにだ。
「ヤル気ないでしょ?」
 思わず時雨はフィーアに聞いてしまった。だが、フィーアは首をゆっくりと横に振った
「滅相もありませんわ。これで十分です」
 ワルキューレが三人もいれば心配ないという自信の現れか、それとも別に策があるとでもいうのか。
 一瞬にして辺りを凍りつかせる禍々しい殺気が立ち込めた。殺葵が近づいて来ているが、見なくとも誰にでもわかった。
 封印を解かれた魔剣士殺葵。彼は妖刀を構え、風と共に現れた。
 ワルキューレたちは時計台を守るように立ちはだかり、その前方には時雨と〈大鷹〉が立ちはだかった。
 魔導書はまだ届いていない。どうする時雨よ?
 剣を抜くのみであった。妖刀村雨が辺りを照らし、時雨は正眼の構えを取り、相手の目の高さに剣先を向けた。
 二人が風を切り走る。光がほとばしり、閃光がぶつかり合う。
 妖刀同士の戦い。村雨が勝つか、殺羅が勝つか。時雨が勝つか、殺葵が勝つか?
 帝都タワー前では殺葵に全く歯が立たなかった時雨だが、今度は違う。
 二人の剣士は交じり合う互いの剣を同時に押し離し、後方に飛んだ。
 村雨を横に振りながら時雨が宙を舞う。光の粒が辺りに飛び散り殺葵を襲うが、殺羅がそれを力強く受け止める。剣は武器であり楯でもあるのだ。
 〈大鷹〉は翼を大きく羽ばたかせ風の刃を発生させた。その刃の先には時雨と向かい合殺葵がいる。
 後ろから風の刃が迫り来るが、殺葵は時雨と対峙しており動くことができなかった。だが、殺葵は動いた。
 足が蹴り上げられ時雨の顔を掠めた。殺葵は相手の剣を自らの剣で防ぎながら、蹴りを相手に喰らわそうとしたのだ。
 蹴りを避けた時雨に隙ができる。その間に殺葵は風の刃に向かって走った。いや、違う風の刃の先にいる者に剣を向けるつもりなのだ。
 風の刃が殺葵の肩を切り裂き血が流れるが、彼は何事もないように走り続ける。
 妖刀が地面を擦りながら上に斬り上げられた。風が唸る。
 〈大鷹〉は間一髪のところで上空に舞が立ったが、殺葵は逃がさない。
 上空15mの距離を殺葵は地面を蹴り上げ軽々と飛翔した。
 地面から襲い掛かってくる殺葵に〈大鷹〉は翼を大きく動かし爆風を浴びせる。それによって殺葵に身体は急激に地面に吸い込まれるように落ちていった。
 地面を砕き、膝を付き、手を付き、殺葵は見事地面に着地をした。
 殺葵には休む暇などなかった。膝を付いている殺葵に時雨の剣技が炸裂する。